アルバム『R.I.P. CREAM』インタビュー
BALLOND'OR、人生を振り返ったロック絵巻『R.I.P. CREAM』を語る 「本当の気持ちと向き合って出てくるものこそパンク」
「内にこもったまま死んでたら何も楽しくなかった」
ーーバンドで伝えたいことって、具体的にはどういうことだったんですか。
MJM:例えば、30人のクラスで28人が賛成していて、自分ともう一人だけが手を挙げなかった時に、そのもう一人も賛成派に流れてしまって自分だけが取り残されてしまうと、本当の気持ちを消さないといけないわけじゃないですか。別に他人と違うことをやりたい訳じゃないのに、自分が思ったことを言うと煙たがられたり、本当の気持ちを隠さなきゃいけないことって、僕はきっとこのまま一生続くんだろうなって思ったんですよ。だから自分の本当の気持ちを曝け出せる方法が何かないかなって探していった時に、ロックバンドだったら表現できると思ったんです。
ーー他人の目を気にせず、自分の意見を吐き出せる場所がロックバンドだった?
MJM:それももちろんありますし、いい音楽さえ作れば、30人の狭いクラスでは肯定されなかったとしても、全国各地にいる自分と近い人には何かしら届くかもしれないと思ったんです。小説では実力が足りなかったけど、そういう人に会いに行きたい気持ちはあると思います。
ーー「UNITED」はまさにそういうことを歌った曲だと思いますし、〈本当の自分を隠して 本当の自分を騙して/二番目の安定を選択/FUCK チャンピオンズ倫理〉って歌うことで、安易な共感や強制に対して、嘆くだけじゃなくて、中指を立てて強い意思表明をしていますよね。
MJM:僕もたまに音楽聴きすぎたり、本を読みすぎて部屋にこもっちゃう時があるんですけど、やっぱりこもったままずっと暗い気持ちで沈んでたりとか、それで死んじゃうとか、絶対良くないと思うんです。なんかもったいないなって思う。それはなんでかというとーー僕が12歳の時、中学校で大問題になった万引き事件があって、何十人もバレたんですよ。その時にクラスで、「こいつが全部手回ししてやった」みたいな感じで、やってないのに僕のせいにされたんです。いや、それちょっとおかしいなと思って、すげえいろいろ言い返したりしたんですけど、全然無理で、言わなかったら学校に母親を呼び出すぞ! みたいなことになって......僕、その帰り道に本気で死のうと思ったんです。マンションの7階の非常階段から10分ぐらい、ずっと地面を見つめて「これは死ぬしかない」って思ってたんですけど、近所のおばさんが「何やってんの!」って止めてくれたから、その時はセーフだったんですよね。で、振り返って考えた時に、あのまま死んでたら何も楽しくなかったなと思って。何かに夢中になることもないし、女の子と喋ったこともないし、友達も全然いないし、コンプレックスを抱えたまま終わってたなって。だから、内にこもったまま死ぬのはもったいないと思うんですよ。BALLOND'ORって人助けみたいな音楽じゃないですけど、自分の友達が死んでしまった時とかも、「あの時何かできたんじゃないか」とか、後悔がずっとあるから、自分が作った音楽の中から何かを感じてくれたり「やってやるぞ」みたいな気持ちになってくれたら、すごく嬉しいですね。
ーー逆にいうと、12歳のMJM少年が感じたとてつもない絶望や孤独は、大人になった今でも心の中に残り続けているんですよね。
MJM:そうですね。秘密を共有してた友達からの裏切りや、先生に話しても全然伝わらなかったことがあったけど、そこで死ぬのはもったいなかったし、今はその分ロックを鳴らしていたいんですよね。その気持ちをいろんな音とか映像と組み合わせて一つの塊にしたいっていう気持ちはずっと変わっていなくて。あと、そもそもBALLOND'ORを最初に始めようと思ったのは、自分の失恋のリハビリも兼ねてたんですよ。音楽を作ることで、胸の痛みを和らげていきたいなって。元々Passion PitとかBeach HouseとかWashed Outとか、あとThe Beach Boysみたいなドリームポップや煌びやかなロックに憧れてたんですけど、いざ曲を作ると失恋によって沈んだ心で、曲もどんどん沈んでいったんですね。「こういう曲にしよう」とかわざわざテーマを決めなくても、自然とノイジーなものになっていって。だから、ありのままの自分を出せばいいんだと思って、高校生の頃に聴いてたThe Damnedとかパンクロックを改めて聴き直していって、BALLOND'ORがスタートしたんです。
ーーBALLOND'ORの根底にはパンクがありますけど、純粋な自分と向き合って感情をいろんな音や表現に昇華していくほど、いい曲を作れるバンドだと思うんです。だから『R.I.P. CREAM』はこんなに素晴らしい作品になったんだなって。
MJM:本当の気持ちと向かい合って出てくるものこそが、自分の中ではパンクなんです。だから好きなビートやギター、好きなベースの音域とかにメロディが重なっていくことで、ようやく自分のパンクが実現できると思っているので、今回はそれが限りなくいい形で実現できたんじゃないかなと思っています。
「ロックバンドは一度しかない旅」
ーーそして今作は終わり方がとても感動的ですよね。「LAST SMILE」の〈飛行機事故で 君が落ちても きっとその下に/僕はいるだろう いたいんだよ〉という歌詞から、死の瞬間、人生の極限状態でも、その人の脳裏に流れる音楽でありたいっていう想いを自分は汲み取ったんですけど、この言葉はどんな気持ちで書かれたんでしょうか。
MJM:自分も言われて気づく部分なんですけど、メンバーにも「この曲って聴き手の近くにいるような曲だよね」って言われたんですよ。そう思うと、確かに自分がリスナーだった時って、好きなバンドや音楽はイヤホン越しに、すごく近くにいるような気持ちになれたんですよね。自分の中の景色を歌った曲なんですけど、最終的にそう思ってくれるなら嬉しいなって。
ーー「LAST SMILE」はこれまでのバラード以上に静かに聴き込める楽曲ですけど、ギタリストとしてはどういう風に捉えていたんですか。
NIKE:確かにBALLOND'ORで聴いたことないくらい静かな音で弾きました。正直「LAST SMILE」に関しては、シンプルな2音くらいのアルペジオだけで十分成立するなと思ってたんですけど、MJMはとにかく歌のメロディにギターが絡んできて欲しいって言うんですね。「もっと景色が見たい。『LAST SMILE』という曲の景色を鳴らして欲しい」って言われたので、今までBALLOND'ORで鳴らしてきた音を一から思い出しながらフレーズを作っていけたんじゃないかと思います。なぜこの曲がアルバムの最後に来たのかーーこの曲が終わった時に、聴いてくれた人にどんな景色を見せられたのかっていうことを考えながら、一生懸命弾かせてもらいました。
MJM:あらゆる表情の中で、笑顔ってすごい素敵だと思うんですよ。だからこそ、誰かの最後の笑顔なんて見たくないんですよね。でも、好きだった人や大切だった人がいなくなっちゃった時って、やっぱりその最後の笑顔が胸のどこかにこびりついてるんです。ロックバンドって一度しかない旅みたいなものだと思っているので、その中で出会いもあれば別れもあったり、暗い時も楽しい時もあるーーそういうことを思った時に「LAST SMILE」ができたのかなって。こんなにダメな自分でも、いろんな音楽や映画に奮い立たせられて生きてこれたと思ってるので、この曲を最後に置くことで、自分が感じたのと同じように誰かを奮い立たせたい、景色を伝えたいんだっていうふうに思いますね。
■リリース情報
BALLOND'OR『R.I.P. CREAM』
4月29日(水)発売 ¥2,000(税抜)
-収録曲-
1. DIENER
2. PURPLE JUICE
3. DAYDREAM
4. SCUM TRUCK
5. HELL SCRATCH
6. UNITED
7. TRUANCY MAFIA
8. DANCER IN THE DARK
9. C.R.E.A.M
10. STARPACKER
11. LAST SMILE