PIZZA OF DEATH RECORDS、Hi-STANDARD全タイトルサブスク解禁 サプライズがもたらした歓喜と未来への可能性
PIZZA OF DEATH RECORDSが4月22日0時、これまでにリリースしてきた全カタログを各サブスクリプションサービスにて配信開始。同時に、TOY'S FACTORYやFAT MIKE(NOFX)主宰の海外レーベル・FAT WRECK CORDSでリリースした音源を含むHi-STANDARDの全タイトルもサブスク配信がスタートした。このニュースがネット配信されるや否や、Twitterでは「ハイスタ」が午前0時の解禁とともに午前10時頃まで10時間もの間トレンド入りするなど、大きな盛り上がりを見せた。
PIZZA OF DEATH RECORDSはこれまで、新型コロナウイルスの感染拡大によるライブイベントの自粛要請などを受け、閉塞感漂う中でレーベルとして何か楽しめる「場」を作れないかと考え、3月の週末にこれまでにリリースした映像作品をYouTube Liveで配信する企画を行ってきた。想像の域を脱しないが今回のサブスク解禁はこの件とは関係なく進めてきたものだろう。昨年6月21日には第1弾としてWANIMAの音源がサブスク解禁されており、その際にレーベル主宰の横山健(Ken Yokoyama、Hi-STANDARD)は「近々に全タイトル聴いていただける環境を提供しようと計画しております」とのコメントも寄せていた。このタイミングにHi-STANDARDの全カタログを含む形で一斉配信となったのは、おそらくHi-STANDARDのドキュメンタリー映画『SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD』のDVD発売にあわせてのサプライズなのだろう。
とはいえ、昨今の社会情勢を前に鬱々とした日々を過ごす音楽ファンにとって、このPIZZA OF DEATH RECORDSとHi-STANDARDの全タイトル解禁は寝耳に水であり、歓喜を通り越して発狂モノのニュースだったはず。かくいう筆者も、その豪華なタイトルの数々を再生しながら過去を懐かしんだり、新たな発見を見出したりと、収穫の多いひと時を楽しむことができた。
そんな中で、プレスリリースには記されていない“もうひとつ”の大きなサプライズも用意されていた。それが、Hi-STANDARDにとって初のライブアルバムとなる『Live at YOKOHAMA ARENA 20181222』の配信リリースだ。これまでも16年ぶりのシングル『ANOTHER STARTING LINE』の無告知リリース(2016年10月)や、18年ぶりのフルアルバム『The Gift』と同時にライブDVD『Live at AIR JAM 2000』を告知なしでリリースする(2017年10月)など、Hi-STANDARDは音楽ファンにさまざまな“ギフト”を用意してきたが、外出自粛要請やそれに伴うCDショップの臨時休業で店頭に足を運ぶことが不可能なこのタイミングにぴったりな“ギフト”を新たに提供してくれた。もちろんこれもそういった情勢を意識したものではなく、Hi-STANDARDの音源をチェックしていたら知らないライブアルバムが突然目に飛び込んでくるという、サブスク解禁に合わせた彼らならではの粋な計らい以外の何ものでもないのだが。
さて、そんな数々のサプライズに対して、Twitter上ではさまざまな声を目にすることができた。例えば、「CDも映像作品も全部持ってるけど、それでもサブスク解禁は泣ける」といった声には筆者も深く頷いた。Hi-STANDARDのコアファンならば、バンドの音源はすべてCDで所有しているだろうし、それらの音源はパソコンやスマホのプレイヤーに常備されていることだろう。しかし、この解禁はそういったコア層よりも「バンド名は知ってるけど音源は持ってない」「代表曲程度しか知らない」というライト層に向けて用意された新たな扉であり、昨年のWANIMA音源解禁時に横山が寄せた「これもひとえにバンドの可能性を広げるための判断だとご理解いただけるとありがたいです」というコメントからもその意図が理解できるはずだ。
もちろん、コア層に対しても新たな可能性がまったくないわけではない。例えば、「Hi-STANDARDマイベスト」や「初心者にオススメのHi-STANDARDこの10曲」のようなプレイリストを個々で考え、それらを公開することで友人同士、あるいは見ず知らずのリスナーと共有することができる。それぞれの選曲からリスナー1人ひとりの個性も感じられるだろうし、ライブのセットリストとは異なる曲順にバンドの新たな魅力を見つけることもできるかもしれない。筆者と同世代のリスナーが学生時代にカセットテープで「マイベスト」を作っていたのと同じように、あるいは90年代後半から2000年代前半に青春時代を過ごした層がMDで同様のことをしていたように、今はプレイリスト機能で「マイベスト」を世界に放つことができるのだから、面白くないわけがない。
と同時に、サブスクを通してHi-STANDARDの音楽を手軽に楽しめるようになったからこそなのか、「○○(曲名)を聴いてると元気出てくるな~」という声も数多く目にしたし、東日本大震災以降のさまざまなトピックと照らし合わせて「ハイスタが人生の所々で不意にサプライズをくれるから、大変な世の中だけど生きるのが楽しい」なんて意見にも共感を覚えた。中にはHi-STANDARDや数々のPIZZA OF DEATH音源を聴いた影響か、「コロナ収束したらこんなバンドやりたいなあ!」と、こちらまでうれしくなるような声もあった。
筆者もHi-STANDARDの『GROWING UP』や『ANGRY FIST』のFAT WRECK CORDS盤をはじめ、久しぶりにじっくり聴くBBQ CHICKENSの諸作品やHAWAIIAN6の初期音源にCOMEBACK MY DAUGHTERSのPIZZA OF DEATH期音源、the 原爆オナニーズがPIZZA OF DEATHから唯一発表した『FIVE LIVE the 原爆オナニーズ』、GARLICBOYS『再録ベスト』、THE INRUN PUBLICS『PUBLIC CORE』などを無我夢中で聴き漁り、気づけば朝を迎えていた。筆者と同じように夜明けまで“祭り”を続けたリスナーも、決して少なくないはずだ。
また、今回のサブスク解禁に際して用意された特設サイトでは、各配信作品にユーザーレビューを書き込むことができる。ひとつの作品がいろいろな視点で語られることにより、ライトリスナーには良いガイドになるだろうし、旧知のリスナーにとってはこれまで気づかなかった新たな解釈の参考になるかもしれない。そういった過去のカタログに対して新たな脚光を浴びせることができるのも、サブスクリプションサービスの魅力ではないだろうか。
横山健はかつて、サブスク解禁に際し「レーベル=音源制作の会社として複雑な思いはありますし、平素より当レーベルを応援して下さっている皆様の中にも同じく複雑な思いを抱かれる方がいらっしゃると思います」と本音を吐露したが、そのあとに「これもひとえにバンドの可能性を広げるための判断だとご理解いただけるとありがたいです」と続けている。このサブスク解禁はバンドの可能性のみならず、レーベルとしても新たな可能性を広げる大きな要因になるのではないか……ここで挙げたポジティブな声やさまざまな試みを前に、筆者はそう信じてやまない。
PIZZA OF DEATH RECORDSオフィシャルサイト
Hi-STANDARD オフィシャルサイト
Hi-STANDARD「Live at YOKOHAMA ARENA 20181222」特設サイト