Matt Cab×鈴木佑氏インタビュー
Matt Cab、グラミー会場やコンテスト優勝で受けた刺激 愛用ヘッドホンの作り手と“音”へのこだわりも語る
SNSを駆使した発信などMattが届ける音楽の楽しさ
ーーMattさんの音楽遍歴についてもお伺いしたいのですが、サンフランシスコで育った幼少期の頃からよく音楽を聞かれていたのですか。
Matt:お父さんに色々音楽を教えてもらいました。父が大好きだったThe Beatlesや、モータウン、70年代のロック、それからThe Eaglesも聞いたし、クラシックまで色々な音楽を聞きました。それと、僕には年の離れた兄と姉がいて、2人からIce Cubeや2Pacなどのヒップホップや90’sR&Bを教えてもらったので、子どもの頃から幅広い音楽は経験できたかなと思います。あとは、5歳からクラシックピアノを習っていたので、そこがクリエイターとしてのスタートでしたね。
ーーたくさんの音楽を聞いていた中で、Mattさんがアーティストとして影響を受けたのは誰ですか。
Matt:やっぱりアリシアの存在はすごく大きいです。この前、彼女と初めて電話で話したんですけど、「僕が自分のお金で初めて買ったアルバムはアリシアの『Songs In A Minor』(2001年)です」って言ったら、彼女が本当に喜んでくれているのが伝わってきてとても嬉しかったです。
ーーアリシアからはどんなことを言われましたか?
Matt:アリシアの第一声が、「Maaaaaaaaaaatt!!!!」で始まったんです。僕の名前を覚えてくれてることに感動してしまって、全然言葉が出なくなってしまいました(笑)。憧れの人と話すのはすごく緊張したけど、彼女は思っていた通りとてもいい人でした。シンガーであり母親でもあるアリシアは、地に足がついた女性で、本当にあたたかい心を持っている人だと思います。僕も息子がいるので、お互いの子どもの話もして、友達みたいに話せました。
鈴木:自分が影響受けたアーティストに直接思いを伝えられるっていうのは素晴らしいことですね。
ーーご自身で作曲をしようと思ったのはいつからですか。
Matt:実はそれもアリシアの影響が大きいんです。クラシックピアノは譜面を見ながら弾くんですが、もっと自由な演奏がしたいと思っていたときにアリシアの「Fallin'」のMVに衝撃を受けて、耳コピで彼女の曲を弾き始めました。それが12、13歳の頃ですね。
鈴木:ビートを取り入れられたのはいつ頃ですか?
Matt:確か高校1年生の頃かな。両親にKORGのTORITONというワークステーションをプレゼントでもらったんです。だけど、TRITONのシークエンサーの中でトラックを重ねて作ろうと思ったらそれがすごく難しくて。
鈴木:ビートといえば、Mattさんは今年の2月に10周忌を迎えたNujabesの音楽にも影響を受けているそうで、彼の5周忌に追悼として「Luv (Sic.) Pt2」のインスト作品をリリースされていましたが、Nujabesはいつ知ったんですか?
Matt:大学1年生の時に、カートゥーンネットワークで放送していたアニメ『サムライチャンプルー』を深夜に見て「これ何!」と初めて聞いた時に驚きました。ちょうどその時友達と生バンドでヒップホップをやっていたんですが、その前からファレル・ウィリアムスのようなオルタナティブのヒップホップが大好きで、Nujabesの音も聞いていて耳が嬉しくなる音ですよね。鈴木さんは、普段どんな音楽を聴くんですか?
鈴木:僕はヒップホップが好きです。元々はMattさんと同じで父親がモータウンのアーティストや日本のグループサウンズが好きで僕も一緒に聞いていたんですが、中学生の頃にWu-Tang Clanがアルバムを出したりして、ヒップホップにハマってからずっと聞いていて、あとはロックも聞くし雑食ですね。Mattさんは今注目している音楽のジャンルはありますか?
Matt:うーん、2020年になって今や音楽にはジャンルがないと思っています。色々なエレメント(=要素)を混ぜて音楽を作るから、僕の頭の中でジャンルは洋服と一緒です、その日のファッション。それに、Instagramのようなソーシャルメディアもあるからリスナーにも気軽に音楽をもっと聴いてほしいですね。
鈴木:日本に来て「こんな人いるんだ」って驚いたミュージシャンはいますか?
Matt:普段から色々お世話になっていますが、m-floですね。VERBALさんと☆Taku Takahashiさんはアーティストでもあり、クリエイターとしての技術もビジョンも凄いなと思います。様々なアーティストとのコラボレーションの仕方にも、本当に憧れています。
ーーMattさんも、BTS、安室奈美恵などのメジャーなアーティストから、YOSHI、MIYACHIといった若者に支持のあるアーティストまで、たくさんの方のプロデュースやコラボレーションをされていますよね。今、この人が面白いと思うアーティストは誰ですか。
Matt:Shurkn Papはとてもかっこいいと思います。この人はラッパーなのかシンガーなのか、一体何者だ? って(笑)。ヒップホップやR&Bというジャンルで括れない、新しいウェーブの中の1人だなと思いますね。でも、実はこれから他にもかっこいいと思う色んなアーティストと、たくさんのコラボレーションを考えています。
ーーMattさんはソロアーティストとしてはもちろん、コンポーザーやプロデューサーとしても活躍しています。曲を提供する際に意識することは何ですか。
Matt:まずそのアーティストのメッセージとストーリーを優先します。
鈴木:リリックが先とか?
Matt:いや、そんなことはないですが、アーティストが何を言いたいのか、フィーリングを把握してから、プロジェクトを進めるのが大事だなと思います。一緒に曲を作るアーティストの魅力をみんなに伝えたいというのが一番ですよね。
ーーSNSで身の回りのものを録音して音楽にする試みもされていますが、やってみようと思ったきっかけはありましたか。
Matt:子どもが生まれたことで、世界の見え方がすごく変わりました。彼が見る世界は全部がすごいので(笑)見るもの聞くものすべてに驚いたり感動したりしていて。そんな息子のおかげで、自分まで子どもに戻ったように普通のことが新鮮に見えて、単純な日常世界のものが、やっぱり特別なんだと感じるようになりました。それで、この素晴らしい日常をアートにしたら面白いんじゃないかと。もう一つびっくりしたのは、リスナーの反響もたくさんあることです。楽しいことを人と共感できるのは、やっぱり音楽のすごいところだと思いますね。
ーーご自身のアーティスト活動におけるターニングポイントは?
Matt:最初は、自分のアーティスト活動のことばかりを考え続けていましたが、自分を優先せずにまずはいい音楽を作ろうと決めたことがプロデュースの道におけるターニングポイントだったと思います。でも、ずっと進化し続けていると思います。
ーー今回の受賞も大きな出来事になったと思いますが、受賞やグラミーの会場に行ったことを通して、この約2カ月間で音楽の向き合い方に変化はありましたか。
Matt:音楽に対して、とにかく今すごく前向き過ぎますね(笑)せっかくこんなに大きなチャンスをいただいたので、以前よりもっともっと頑張りたい気持ちです。
ーー今後の目標はありますか。
Matt:まずは、もっとコラボレーションを増やして、僕がブリッジをいっぱい作って色んな人と人をリンクさせて、新しいムーブメントやニューウェーブを作りたいと思っています。あとは、テクノロジーやソーシャルメディアもすごく早いペースで進化しているから、音楽のポテンシャルがどんどん広がっていると思います。なので、クリエイター側もリスナー側も、もっと音楽を楽しめる環境を作っていきたいですね。
ーーMattさんもInstagramで作業風景をアップしていますし、今回のリミックスコンテストの応募もソーシャルメディアで繋がったコミュニティだと思います。手軽に発信するプラットフォームが増えたことを、作り手としてどう捉えていますか。
Matt:僕はInstagramなどでビートをアップして、リスナーやユーザーの反応を見て「こんなアーティストがこの曲には合うんじゃないか」とアイデアをもらうこともあるし、ソーシャルメディアを使って、音楽の可能性を試しているところがあると思います。自分では「まあまあだな」と思っていても、アップしたら「これすごいよ!」ってたくさんコメントが来たりもして(笑)。発信してみないと、自分の作った音楽の良さがわからない時もあります。ただ、ソーシャルメディア自体は道具なので、その人の使い方によってネガティブになってしまうものでもあると思うから、しっかり音楽をポジティブに楽しめるように使っていければと思っています。
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