NBA選手 八村塁がキーマンに? CMや応援ソングから探るヒップホップ×スポーツの動向
ヒップホップとバスケの関係性は、どちらもストリートカルチャーと深い関わりがあるだけに、ここだけで簡単に振り返ることは難しい。ただ、最近でいえば、2018年のNBAオールスターゲームにおいて、Migosがハーフタイムショーに参加したり、同クルーのクエイヴォが、「セレブリティ・オールスターゲーム」に常連として顔を連ねたりと、何かと話題に事欠かないのは間違いないだろう。
スポーツを盛り上げる音楽といえば、これまでの主流はやはりロックだった。しかし、近年はその流れも変わってきている。その傾向はバスケとヒップホップにおいて特に顕著であるほか、徐々に日本のスポーツ界にも、ヒップホップを応援歌とするアイデアが浸透してきているように思える。
その例は、今夏に開催予定の「東京2020オリンピック」でも同様だ。例えば、今年1月よりオンエアを開始したNTTドコモのCMでは、SILENT POETSが5lackを客演に迎えた「東京 ~ NTTドコモ Style'20」がテーマソングに。5lackが綴るリリックは、選手らがCM内で語る言葉ともリンクしており、オリンピックという大きな挑戦への幕開けを予感させる、クールで堂々としたラップを披露している。また意外にも、同曲がリリースされたのは2016年12月。長きにわたり選手らの想いを代弁してきたことも特筆すべきポイントだ。
さらにKID FRESINOは、2019年12月よりオンエアされている三菱地所のCMに楽曲提供。同曲のリリックは、選手らが抱える“もうひとりの自分”と対峙するプレッシャーや、それを乗り越える想いが歌われたものに。〈影は唯一 足から離れ 1人きりの空中〉といったリリックで、映像との親和性の高さを担保しつつ、PARKGOLFによるビートとの相性の良さも発揮するなど、タイアップと自分らしさの両立する姿勢に引き込まれることだろう。
以上を踏まえるに、スポーツにおける応援歌がヒップホップへと移り変わる潮流は、少しずつだが日本においても現れはじめた。なかでも日本では、adidasやNIKE、Reebokなどのスポーツウェアブランドが、その立役者として率先している印象が強い。その象徴たる存在が、2016年に「Get Light」でReebokとタッグを組んだKANDYTOWNだろう。そのほかに、スポーツウェアブランドではないものの、2017年にはTimberlandとのタイアップ曲「Few Colors」を発表したり、メンバーのIOがadidasのプロモーションに単独で参加したりと、ステージ外でも何かと目にする機会が多いファッションアイコンだ。
もちろん、彼ら以外にもスポーツウェアブランドの広告塔となるラッパーはますます増え続けている。日本における彼らのパブリックイメージや、ヒップホップの大衆的なポジションの変化が、これらの現象を通して示唆されているのではないだろうか。いずれにせよ、日本国内におけるスポーツとヒップホップの関係性は、八村が加わったことでその変容をより明瞭にし、果ては大きなムーブメントを巻き起こす可能性さえある。ただ、まずは本稿で紹介した楽曲を聴きながら、八村塁を中心とした今後の動向をじっくりと見守っていきたい。
◼︎一条皓太
出版社に勤務する週末フリーライター。ポテンシャルと経歴だけは東京でも選ばれしシティボーイ。声優さんの楽曲とヒップホップが好きです。Twitter:@kota_ichijo