半崎美子の楽曲に宿る“言葉の説得力”とは 上京から20年貫き続ける歌手としての信念
老若男女に愛される歌というのは、しっかりした演じ手の説得力がありつつも、聴き手が自分の姿をそこに投影でき、感情移入もできる間口もある、そんな微妙なバランスの上に成り立っているのではないかと思う。それは、言い換えるならリアリティと呼べるものかもしれない。
半崎美子のニューシングル曲「布石」は、ある一面では、紛れもなく彼女の“私小説”である。札幌の大学に在学中に音楽に目覚め、大学を中退して上京したのが2000年。パン屋さんに住み込みで働きながら曲を描き続け、一度も事務所やレーベルに所属することなく、ライブハウスやホール、フェスなどの“非日常”の空間ではなく、“日常”と地続きのショッピングモールを個人で回り、数多くの人たちと出会い、深い交流を果たし、いつしか“ショッピングモールの歌姫”と称されるようになった。
約17年間に及ぶインディーズ活動を経て、2017年4月に1stミニアルバム『うた弁』でメジャーデビュー。NHKみんなのうたでオンエアされた「お弁当ばこのうた~あなたへのお手紙~」や亀田誠治がプロデュースを手掛けた「サクラ~卒業できなかった君へ~」を収録した同作は大きな反響を集め、『情熱大陸』(TBS系)をはじめ、数々のメディアで取り上げられることになった。翌年には集大成ともいえるコンサート『北海道からどんぶらこ~海越え国越え明日越えて~』を東京国際フォーラム ホールAで開催し、昨年(2019年)8月には、シングル曲「母へ」を収録した2枚目のミニアルバム『うた弁2』をリリース。ライフワークだというショッピングモールでのライブとサイン会も続けながら、11月には、Bunkamuraオーチャードホールでのコンサートも大成功に収めた。
そして、2020年。半崎美子が上京して20年目となる節目の年にリリースされた新曲「布石」は、“1つのことだけをずっと続けてきた強い信念”をテーマにしたピアノバラードとなっている。
彼女は「これまでの積み重ねがあったからこそ書ける歌を送り出したいと思いました。迷いながら、背負いながら、救われたり報われたりを繰り返してきた布石たち。一途に続けることでしか辿り着けない今日を、讃えるように歌いました」とコメントしている。かつて、彼女にインタビューした際、「どうして続けてこれたのか?」という質問を投げかけたことがあるが、彼女は「大変だったこともたくさんあるし、気づいたことや気持ちを踏みにじられるようなこともあったけど、そういった出来事が取るに足らないことだと思えるくらい、もっと素晴らしい出会いをたくさんしてるし、歌い続けてきてよかったなと思える瞬間を何度も味わってる」と語った後に、柔らかい微笑みを浮かべながら、「あとは……自分の歌や、自分自身を疑ったことが一度もなかったからかな」と続けた。
音楽以外のたくさんのことを手放し、諦めてきた。いい時もあったし、ダメな時もきっとあった。それでも、いつだって全ては“今日”に辿り着くための“布石”だったと確信をもって言える。そんな刹那の思いと歴史の重みがちゃんと手を結んでるからこそ歌える「布石」。その言葉は、20年間、歌うことを続けてきた彼女だからこその説得力を湛えて聴き手の胸に響き、さらに彼女のこれからの道のりを輝かせる布石にもなっていることだろう。