今、大阪のガールズバンドがアツい カネヨリマサル、FiSHBORN、ヤユヨ……個性的な楽曲で勢い増す3組
FiSHBORN:ちょっぴり青くさくて、それでいて潔い
「釣具屋でよくかかっているガールズバンドが釣り仲間の間で人気」だと、釣り好きの知人が言っていた。自分は釣りをしないためか、何を言ってるのかよくわからなかった。調べてみると、『タックルベリー』という中古釣具販売チェーン店に、「Music Choice」という選りすぐりのインディーズ楽曲を毎月1~2曲紹介する企画があり、そこで選ばれたFiSHBONEという大阪のガールズバンドが店内BGMとして流れているようだ。釣りだからFiSHBONE? 釣り好きでいい歳した男性にウケるガールズバンド? ……という安直な考えで想像していたものとはだいぶ違っていた。
〈天才にはなれないと気づいたことに 僕ら気づかないふりをすることを選んだ -「此処から」〉
その出だしの一節を聴き、いきなり胸を掴まれた。『タックルベリー』で大人たちの心を動かした理由もすぐにわかった。夢もロックンロールも、年齢など関係ないのだから。
FiSHBORNの楽曲はフォークソング的である。伸ばしていくような符割が少なくJ-POP要素はあまり感じない。メロディとリズムと言葉の置き方が絶妙で、三位一体となって楽曲に見合ったテンポとともに転がるように歌が進んでいく。
前田小春(Vo/Gt)の歌は異様なほどに気持ち良くて、聴いているとなんだか晴れやか気分になってくる。〈なんにもいらないよ 簡単でいいよ たった3コードでよかったんだ - 「夜を抜けて」〉と、3コードに乗せて歌う。小細工なんて必要ない、アレンジもシンプルだ。バンドの音に乗せて歌っているのではなく、まず歌があってそこに合わせにいっているバンド感。ちょっぴり青くさくて、それでいて潔い。そんな男性バンドに向けたような言葉が、ガールズバンドの褒め言葉になるなんて、FiSHBORNを聴くまでは思ってもみなかった。
ヤユヨ:懐かしくて心地良い令和の女子大生
最後は昨年12月に自身初となるMV「さよなら前夜」が公開されて以来、耳の早いロックファンの間で話題となっているヤユヨ。
やりきれない感情を日本の土着的な節に乗せて歌う。なんだか懐かしい気分にさせてくれる耳馴染みの良いメロディ。ちょっと古めかしくて野暮ったさを感じるところも、逆に心地良い。今どきの女子大学生バンドながら、一際目立つリコ(Vo/Gt)の佇まいはフロントマンとしてのオーラを放ち、ちょっとアブなさも兼ね備えているようで、とても魅力的だ。
ライブ会場とタワーレコードの一部店舗で発売されているシングル『さよなら前夜』には、甘い恋心を綴った「ユー!」や、メンヘラ女子のダークな気持ちを歌う「メアリーちゃん」など、多彩な4曲が収められている。リコとぺっぺ(Gt/Cho)、タイプの異なる2人のソングライターがいることがバンドの振り幅を大きくしている。
結成1年ながら、早くも漂わせる謎の貫禄含め、これからが楽しみで仕方ないバンドだ。今年6月に初の全国流通盤『ヤユヨ』のリリースも決定しており、目が離せない。
ここにあげたバンドに共通するものーー彼女たちは説教じみたことも、はたまた「頑張れ」とも言わない。けれども「自分と同じような気持ちでいる人間が他にもいて、そのことをストレートに歌にしてくれる存在がいる」という安心感と心強さをリスナーに与えてくれる。そんな歌を聴いて「今よりもうちょっと自分のことを好きになってみようかな」「明日は今日より少しだけ頑張って生きてみようかな」なんて、思うのである。
■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログ/Twitter