Lucky Kilimanjaroが伝える、“おどる≒ダンスミュージック”の新解釈「自分と向き合って楽しむことであり、日々の中で楽しむこと」

ラッキリが語る、“おどる”ことの本質

「“人に寄り添う優しさ”は一貫している」(大滝)

ーー「日本の人口密度に合う」というのはまさにな表現だと思うんですけど、新作『!magination』はメッセージ性と快楽性が相反せず同居しているところが素晴らしくて、ナチュラルに日常に溶け込むアルバムだなと思いました。

熊木:今回のアルバムのなかで最初にできたのが、最後の11曲目に入っている「ロケット」だったんです。この曲は去年、「FRESH」と同じくらいのタイミングに作っていたんですけど、「FRESH」を書き終えて、2019年にリリースする曲も出揃ったときに、「このあと、Lucky Kilimanjaroをどうしていけばいいんだろう?」ということを迷い始めたんです。どこかで、自分にとっての「Lucky Kilimanjaro像」を勝手に作ってしまっていた感じがあって。自分たちで「世界中の毎日をおどらせる」と言っている以上、「踊らせなきゃいけないんじゃないか?」っていう気持ちが、自分のなかに出てきてしまったんですよね。

Lucky Kilimanjaro「FRESH」Official Music Video

ーー2019年のLucky Kilimanjaroはすごくいいモードの印象がありましたけど、曲を作っている側としては、次の1歩に向けての悩みがあった。

熊木:お客さんには楽しんでもらいたいし、新しいお客さんにも出会いたい。でも、「ロケット」を作っている頃はまだシングルもリリースされていなかったから、どんな反応が来るかもわからないし……そういうところで、すごく悩んではいました。上手く曲も書けなくなっていたのですが、悩みながら作った「ロケット」が自分と向き合ういいきっかけになったと思います。

ーーそう思うと、「ロケット」はすごく内省的な曲ですよね。〈思うようには伝わらない/思うように完成しない/でもそれがやめる理由にはならない〉という歌い出しも、すごく正直な内面の吐露のように思えます。

熊木:結果として、「ロケット」は2019年に出してきた曲に比べても、すごくスローな曲になったんです。でも、すごく好きな曲になったし、「とりあえず、自分が思うかっこよさをそのままちゃんと出すことが大事なんだ」っていうことが、「ロケット」を作ったことでわかったんです。そういう気付きが、『!magination』を作る上でのスタートになっていると思います。アルバム全体を通しても、「いいからとりあえずやってみよう」「いいからとりあえず続けてみよう」っていうことを、根拠はないけど、言い続けていると思うんです。最後には、自分が好きだと思っていることが根拠になるからって。

ーー熊木さんが自分の内省に向き合ったからこそ生まれたメッセージであり、作品であると。

熊木:ただ、「ロケット」はかなり内省的な曲だったから、最初メンバーの評判はあんまりよくなかった気がします(笑)。アルバムの全体像が見えていたわけでもないし、「次は『ロケット』で大丈夫なのか?」っていう不安はあったと思う。でも、最終的にアルバムとして落とし込んだときに、みんな、しっくり来たんじゃないかと思います。結果として「ロケット」はアルバムの最後に入れることになったんですけど、それは、「ロケット」のメッセージのあとに、聴いた人がなにかを始めてくれたらいいなと思ったからなんです。

ーー「ロケット」が生まれたときのことや、今回のアルバムを通して出てきている熊木さんの詩情を皆さんはどう受け止めているのか、伺いたいです。

松崎:たしかに、「ロケット」ができたのはシングルに向けた4曲と「FRESH」の出てきた後のタイミングだったから、挑戦的な曲だなと思いましたね。僕は正直、「ロケット」がリリースされるところまでは想像がついていなかった部分もあって。

大瀧:(「ロケット」は)リード曲というよりも、アルバム曲だよねっていう印象はあった。でも、昔から、“人に寄り添う優しさ”っていう点は、一貫していると思うんです。

松崎:そうだね。今回のアルバムは、メッセージ性が芯にあるとは思うんだけど、そうじゃない、もっと生活に寄り添うような曲もあって、メッセージだけをガンガン押し付けるようなアルバムではない。そのバランス感覚が僕はすごくいいなと思うんです。真面目なことだけを言うんじゃなくて、ふざけてみせたり、いろんな側面を見せることで、より、世界観に入りやすくなっているんじゃないかって。例えば「とろける」は、普通の生活の中に馴染んで聴ける曲だと思う。こういう曲を入れていくことは、フルアルバムだからこそ、できたことなのかなとも思います。

熊木:確かに、今まではメッセージ主体の曲が多かったけど、去年の「HOUSE」がいろんな人に受け入れられたことで、自分のなかの意識も結構、変わったのかもしれない。もっとフランクでいいし、ふざけていてもいいのかなって。……ラミちゃんはどうなの、今回の僕の歌は。例えば「君とつづく」みたいな恋愛の歌はどう響きましたか。

ラミ:こういうシチュエーションになったことがないので、わからないです。

一同:(笑)

大瀧:実体験してみないとわからないんだ(笑)。

ラミ:そりゃそうよ。でも、昔のマルさん(熊木)が書いていた恋愛の曲って、どこか絵空事というか、理想を歌っている感じがあったなと思うんですよね。映画のワンシーンを切り取りましたよ、みたいな。でも、今回は日常で起きたちょっとした恋愛模様みたいなものを歌っている感じがあって……そういうところは、グサッときますよね。

大瀧:結局、刺さってるんじゃん(笑)。

熊木:確かに、昔は映画っぽかった気がする、自分でも。

大瀧:なんで変わったの?

熊木:なんでだろう?(笑)

「バンド全体のことをいつも考えてくれるようになった」(ラミ)

ーー(笑)。今日、せっかくの全員揃っての取材なので聞きたかったことなんですけど、熊木さんは、バンド結成当初に比べてなにかが変わりましたか?

松崎:変わったと思いますよ。僕はLucky Kilimanjaroの結成当初にはいなかったメンバーなんですけど、そのときは普通に友達として、デモを聴かせてもらっていたんです。当時は歌詞にまったく重きを置いていなくて、むしろ耳障りとか、如何にメロディにマッチするかで言葉を選んでいたと思うんですよ。

ラミ:そうだ、マルさん、昔は「歌詞なんてどうでもいいんだよ」って言ってたよね。「結局、イントネーションだから」みたいな(笑)。

大瀧:そうそう、「曲がよければ売れるんだ」って言ってた(笑)。

熊木:そういう部分は今も受け継がれてはいるんだけど、そこに、歌詞の重要性が乗っかってきた感じなんだよね。でも、詞に対しての姿勢は本当に変わったなって思う。性格はどう? 変わった?

ラミ:昔は、もっとクズだったよね。

一同:(爆笑)

熊木:今、すごいこと言ったぞ(笑)。

ラミ:クズというか、人を突き離すときは、すごく突き離してたよね。でも、今は突き離すというよりは、人との関係が上手くいかなくなったとき、「どう良くしていこう?」とか「どう改善していこう?」っていうことを考える人になったなって思う。

熊木:確かに、昔はもうちょっとパワハラ気質があったかもね。

ーー(笑)。自覚があるわけですね。

熊木:自分でも「そうかもな」って思います。でも、今は歌詞を書いていても、「強い言葉で当てても相手が委縮するだけだな」というのは考えるようになっていて。自分が正しいと思うことは本当に正しいかわからないし、正論で相手を論破しても、それだと「勝てているけど負けている」みたいな状態になってしまうこともある……そういう部分は、自分でいろんなことに気づいて、変わったなって思いますね。やっぱり、詞に向き合うことで変わっていったと思うんですよ。詞に向き合うことで、「人はどんな感情になるのか?」みたいなことにもっと目を向けるようになったんです。そういう意味では、優しくなったのかなって思うけど(笑)。

柴田:優しくなりましたよ。バンド全体のことをいつも考えてくれるようになったという意味では、頼もしくなったとも言えるし。結成当初は、「幸丸さんが一番頑張っているから、頑張ってついていかなきゃ」っていう感覚が僕にはあったんですけど、今は幸丸さんがちゃんと引っ張っていってくれるから、自分も頑張ろうと思えている感覚があって。

熊木:この6人じゃないとできないことがたくさんあるので。今は、僕のほうから皆にお願いする形になっていると思います(笑)。

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