矢野顕子が鳴らす“今日ここにしかない音楽”を体感 小田和正も登場した『さとがえるコンサート2019』東京公演を振り返る
休憩が終わり、矢野顕子が再登場。ピアノの弾き語りで松崎ナオの「川べりの家」を歌い、その余韻の中で小田和正を紹介する。大きな拍手と歓声の中で登場した小田さんはブルーのシャツ。ワインレッドのブラウスに着替えた矢野さんとのコントラストも美しい。その昔、共立講堂で「矢野顕子/オフコース/甲斐バンド」が競演したエピソードなどを交えて話がはずんだところで「じゃあ、やりますか?」と小田さん。1曲目は2006年のアルバム『はじめてのやのあきこ』で初のデュエットを果たした「中央線」。THE BOOMが1996年に歌った宮沢和史のナンバーだが、この曲もまたすでに“矢野顕子の歌”。矢野顕子のピアノ、小田和正のギター、そしてふたりの歌とハーモニーというシンプルさが、さらにその “極み”となって客席を包み込む。
2曲目は矢野さんから「キャロル・キング、やりませんか?」と提案したという「You've Got a Friend」。「20世紀の名曲であり、そしてこれからもずっと残る曲」と矢野顕子が語る「You've Got a Friend」にまた新たな名演が誕生した、と言っても過言ではない、すばらしき時間。この時間の中に一緒に居られることの愛おしさ、大袈裟に言えば感謝が、じわじわと浸みてくる。これぞライブ。
小田和正がステージを去って、再びメンバーが登場。ピアノを離れてセンターに立っての「David」(1986年)。手元にある小型のキーボードは鍵盤部分が客席側に斜めに向いている独特のセッティング。そのココロは「立ったまま手首を下げた状態で弾けるから」ということらしく、「NYでよく見に行っているバンドを真似してみました」という本人解説が楽しい。
客席とのコール&レスポンス付きの「SUPER FOLK SONG」。そして「この曲も山下(達郎)くんが私のために書いてくれたはず(笑)」というお約束のひとことから「Paper Doll」のカバーを披露。後半でスキャット、フェイクが渦巻いていく、スポーツ選手で言うところの“ゾーンに入った”かのようなボーカル&プレイは圧巻。それを支えるバッキングの絶妙なテクニックがここでも光り出す。
洗練されながらも熱いという、その熱量のまま、「GREENFIELDS」(1984年)と「ひとつだけ」(1996年)でエンディング。大きな拍手に応えてのアンコールは「炭水化物メドレーね」と笑いながら「ごはんができたよ」と「ラーメンたべたい」。どれだけラーメンが好きなんだ! と思わずツッコミたくなるぐらいの熱がこもる。
オールタイムベストと呼べるナンバーが並んだ今回のライブだが、この「ラーメンたべたい」も含めて、このバンドでしか鳴らせないアレンジで、今日ここにしかない矢野顕子の音楽を鳴らし続ける。ポップスともジャズとも呼べるし、でもそうではない、すでに“矢野顕子というジャンル”(by 糸井重里)。
ワン&オンリーの称号は、2020年代にもきっとゆるぎないものでありましょう。
(取材・文=渡辺祐/ライブ写真=Susie)
■リリース情報
矢野顕子&上妻宏光ユニット“やのとあがつま”
1st Album『Asteroid and Butterfly』
発売:2020年3月4日(水)予定
2020年春。矢野顕子&上妻宏光によるコラボユニット始動。
日本の生活文化から生まれ、歌い継がれてきた唄の奥深さ、 日本文化特有の “間” を持つ民謡を矢野顕子と上妻宏光が二人のフィルターを通して、MUSIC( 音楽)へと昇華。
日本から世界へ提案する、新しい “JAPANESE MUSIC” がここに誕生。