ATEEZデビュー作はサウンドをローカライズ 日本のポップミュージックをアップデートする道筋となるか

 まず気になるのはストリングスだ。「HALA HALA (Traditional Treatment Mix)」では、冒頭から既発バージョンにはないストリングスが登場する。フックの部分も、もともとはトラップのビートと最低限のメロディがなぞられるだけでミニマルなビートだが、ストリングスが加わることで楽曲の持つドラマが増強されている。同じことは「Treasure(Smoothing Harmonies Mix)」でも起こっている。冒頭こそほとんど同じに感じられるが、最初のサビを超えるとストリングスが饒舌になる。

「HALA HALA (Traditional Treatment Mix)」
「Treasure(Smoothing Harmonies Mix)」

 要はメロディが薄い部分を補うようにストリングスが足されているわけだ。「Pirate King(Overload Mix)」ではエレクトリックギターがその役割を担っている。57秒ごろから登場するギターの単音リフは既発バージョンにはないし、以降聴けるギターも同様。「Illusion(Chillin' with BUDDY Mix)」も既発のバージョンにはないボーカルチョップや、80'sのユーロビートもかくやというシンセリフの唐突な挿入がメロディの薄さを補っている。

「Pirate King(Overload Mix)」
「Illusion(Chillin' with BUDDY Mix)」

 他に興味深いのは「Wave(Ollounder's Bold Dynamics Mix)」や「Twilight(Classic BUDDY Mix)」だ。ムーンバートンやトロピカルハウスといったBPMがゆるやかでチルな雰囲気を漂わせた既発バージョンとはガラッと曲調を変え、前者は攻撃的なEDM系のトラップ、後者はアコースティックピアノ中心のビートレスな一曲になっている。チル寄りのビートがどちらも変更されているということは、このあたりのジャンルが日本に合わないという判断だろうか。

「Wave(Ollounder's Bold Dynamics Mix)」
「Twilight(Classic BUDDY Mix)」

 もちろんこうしたリアレンジが楽曲の魅力を極端に損なうということはないし、とてもクオリティの高いサウンドに仕上がっている。とはいえ、サウンドの面白さを押し出す最小限のアレンジを抑えて、メロディで高揚感を演出する傾向がここまではっきり出るとなかなか考えさせられるものがある。と同時に、日本のポップミュージックをアップデートする道筋も見えてくるようでもある。

■imdkm
ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。
ブログ「ただの風邪。」

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