登坂広臣、ソロプロジェクトの紛れもない発展形ーー最新曲「OVERDOSE」で見せた変化と本領
そうした来歴を経て先頃リリースされた最新曲「OVERDOSE」は、登坂広臣が仕組む変化の紛れもない発展形であり、ある種の帰結でもある。狂おしいほどに人を愛してしまったがゆえ、自暴自棄に陥る男の苦悩を描いたリリック、スモーキーな空気を背負いながらバウンシーな鼓動にも余念がないダンスサウンドと、“登坂印”とでも言うべきスタンダードな要素が主体を担っているのは事実。しかしながら今回は、悲哀を増幅させる味付けが重厚に施され、従来の作品にはあまり見られなかった寂しい余韻がヘビーに留まり続ける点で斬新な聴き心地を誇る。特に、ビルドアップの役割を担う生温かいファルセットは絶品。残されたわずかな希望に縋る主人公の心境を、登坂は穏和なボーカリゼーションで情感豊かに表現。直後に訪れる激情的なサビが一段とドラマティックに盛り上がるという意味でも、同曲きってのハイライトとして推薦しておきたい。
サウンドメイキングには、「SUPERMOON」「NAKED LOVE」に続いてUTAとSUNNY BOYの黄金コンビが参加。また、彼らと同じTinyVoice,Production所属のクリエイターで、Ymagikとしてシンガー活動も行うYoheiが、登坂との初タッグにして作詞を担当している。R&Bをこよなく愛するYoheiの洗練された言葉選びは、「OVERDOSE」の軽快なリズムとグルーヴに大きく寄与。彼のような腕の良いクリエイターと邂逅したことで、登坂の音楽性は今後、よりいっそう有機的に冴え渡っていくのではないだろうか。
果たして「OVERDOSE」の誕生は、勢い芳しい登坂広臣の活動指針を決定付ける画期的な出来事だったように思う。が、きっとこれはまだ前哨戦。おそらく2020年のニューアルバムでは、これまで以上にフリーキーな名曲をお見舞いしてくれるはず。我々の想像を軽々と超えていくほどに新しく塗り変わった“オミ”を、今から楽しみにしている。
■白原ケンイチ
日本のR&B作品をはじめ、新旧問わず良質な歌ものが大好物の音楽ライター。当該ジャンルを取り上げるサイトの運営、コンピレーションCDのプロデュース、イベント主催の経験などを経て、現在はささやかに音楽ライフを満喫する日々。Twitter