クリープハイプ、現体制10周年を機に再構築した「バンド二〇一九」 これまでの歩みを追体験できるような1曲に
クリープハイプが「バンド二〇一九」を10月10日に配信リリースした。この曲は2016年にリリースされた4thアルバム『世界観』収録曲「バンド」を、現体制10周年を迎える本日11月16日を前に再構築したものだった。
今回の楽曲は、尾崎世界観(Vo/Gt)が中心となってアレンジを行った原曲を、小川幸慈(Gt)、長谷川カオナシ(Ba)、小泉拓(Dr)の3人が中心となりリアレンジした。
楽曲のリリースと同日に公開されたMVの演出もリスナーの間で話題となった。「尾崎世界観の葬式」をテーマに制作されたMVには小川・長谷川・小泉の年老いた姿を彷彿とさせる男性が3人登場し、若い姿のままである尾崎が棺に納められ、祭壇に寝かされている様子が描かれている。3人は棺に収まった尾崎の穏やかな顔を覗き込み、溢れんばかりのバラの花を手向けていく。
〈今までバンドをやってきて 思い出に残る出来事は〉と歌詞の中にあるように、この曲はバンドのそれまでの歩みを尾崎が振り返り、心のうちに思うことを率直な言葉で綴った私小説的なものになっている。その軸となっているのは尾崎以外の3人のメンバーがバンドの正式メンバーとなることが発表された10年前の出来事。〈2009年11月16日 アンコールでの長い拍手/思えばあれから今に至るまで ずっと聞こえているような気がする〉のワンフレーズには、何度やめたいと思っても捨てきれない、彼のバンドへの夢と執念が透けて見える。
尾崎の生々しくありながら詩的な描写によって描き出されるバンド生活でのやるせなさ、そして喜びや素直に伝えられないメンバーへの感謝などの感情は、一見天邪鬼ながらまるで彼らの10年間の歩みを追体験しているような感覚を呼び起こす。
現在では小説家としても活躍し、才能を大いに生かしている尾崎。そのソングライティングスキルはリスナーの間でも高い人気を誇るラブソング「百八円の恋」や出世作と言える「憂、燦々」などにみられるように男女のままならない恋愛模様を描くにおいて最大限の魅力を発揮するが、具体性の高い描写力や少しひねくれた言い回しは、このような私小説的な作詞でも充分発揮されており、小説やエッセイで垣間見える彼の文才にも通ずるものがある。
さらに、小川・長谷川・小泉の3人によるサウンドアレンジにも注目したい。尾崎の綴る言葉を最大限に引き出すべく3人の手によってリアレンジされた楽曲は、シーンでもひときわストレートなギターロックを貫き続けているクリープハイプらしい、シンプルでありながら構築的なものになっている。コーラスのニュアンスや細かいバンドサウンド、アウトロなど随所に尾崎の独特の歌声で綴られる歌を際立たせるための技が効いている。「二十九、三十」などのバラード曲で活かされる小川の繊細で郷愁のあるギターサウンド、「イト」や「リバーシブルー」などのポップな楽曲で活かされる長谷川のメリハリの利いたベースやコーラス、そして「鬼」などのエッジーな楽曲でもバンドの音全体をしっかりと底上げし、ポップロックとしてのクリープハイプを支える支柱ともいえる小泉のドラムーー歴代のクリープハイプの代表曲で大切な役目を担い続けている3つのピースが楽曲の中で的確かつエモーショナルにがっちりと嵌り、尾崎の歌心を原曲以上に際立たせている様子は、バンドの記念碑的な作品としてとても象徴的に聴こえる。
「バンド二〇一九」での小川・長谷川・小泉によるアレンジは、尾崎の歌を知り尽くし、バンドのために音を磨き続けてきた3人だからこそ施すことができたアレンジであるといえるだろう。この1曲の中に、4人がクリープハイプというバンドの歩みの中で手にしてきた財産が凝縮されているといっても過言ではない。