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SEKAI NO OWARI Saori、クリープハイプ 尾崎、WEAVER 河邉…ミュージシャンの小説を読む

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 5月23日、WEAVERの河邉徹(Dr / Cho)の小説家デビュー作『夢工場ラムレス』が発売された。ウェブ上での連載をまとめた本作は、以前よりWEAVERの楽曲で作詞を主に担当してきた河邉の文学的才能が開花した、と連載中からファンの間で話題になっていた。

 小説家として文才を高く評価されているミュージシャンは少なくないが、書店などでもタレント本コーナーに著書が置かれることが多かったりと、まだまだ他の文学やエンターテインメント小説よりも認知度があまり高くない印象がある。

 しかし、彼らの作品には、ミュージシャンだからこそ描ける魂の物語が込められている。

 今回は藤崎彩織(SEKAI NO OWARI)、尾崎世界観(クリープハイプ)、そして河邉徹の作品に注目し、その魅力を紹介したい。

藤崎彩織『ふたご』

藤崎彩織『ふたご』

 SEKAI NO OWARIのメンバーとしても活躍するSaoriこと藤崎彩織の初著書。孤独な少女と変わり者の少年との出会い、交流、そして音楽との関わりやふたりの心の葛藤が丁寧に描かれている。物語自体はごく現実的なものだが、とても丁寧で柔らかい文体や薄暗いロマンティックさを感じる情景描写が、おとぎ話のような不思議な雰囲気を醸し出しているのが印象的。この点は、SEKAI NO OWARIの楽曲で長年Fukase(Vo)と共に作詞に携わることで培われた彼女の表現力、そして独特な世界観が色濃く影響しているようだ。

 物語の軸はSaori自身の実体験で、Fukaseとの出会い、そしてバンド結成までの経緯に基づいている。ともすれば安易な男女のロマンスになってしまいかねない少女と少年の出会いが、恋愛感情や友情を飛び越えた唯一無二の関係性の物語に昇華されているのは、恋人や家族をも越えた関係性の“バンドメンバー”という仲間を持つSaori自身の体験が投影されているからだろう。

 自らの体験を優しく冷静な眼差しで正面から見つめ、文学作品として完成させている真摯な小説だ。

尾崎世界観『祐介』

 エッセイなども高く評価され、文壇でも多くのファンを獲得しているクリープハイプのボーカル・尾崎世界観の処女作『祐介』。売れないバンドマンの苦悩と葛藤を生々しく描いた本作は、本人曰く「音楽では足りない所を全部出せた」いわゆる自伝的な作品となっている(参考:尾崎世界観、初の自伝的小説を刊行! 「祐介」が「世界観」になるまでを描く)。

 しかし、よくあるバンドマンの苦労話には決してとどまらないのがこの作品の特筆すべきところ。私小説的な内容ながら、感傷を徹底的に排除した淡白な文体で完成度の高い“純文学”へ昇華している。

 目を覆うほどの暴力と性描写、落ちぶれていく主人公の苦しみ。そこにはたしかに尾崎本人の歩んだ人生が透けて見える。ともすればひとりよがりで重たい物語になりかねない題材だが、淡々とした語り口のため不思議なほど軽快に読めるのが魅力的だ。

 クリープハイプの楽曲の中で、生々しい感情をキャッチーなロックミュージックに昇華させ続けてきた尾崎のソングライティングスキルが、小説でも遺憾なく発揮されている。

 「尾崎世界観が書いている」という理由からこの本を手に取ったロックリスナーが、様々な純文学に触れるきっかけになる入門書としてもおすすめできそうだ。

      

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