miletは、なぜ新人離れした存在感を放つのか 洋楽的サウンドメイクと確かな“J-POP”感
11月13日放送の『ベストヒット歌謡祭2019』(読売テレビ・日本テレビ系)に、シンガーソングライターのmiletが初出演する。
今年3月にデビューを果たしたばかりの新人ながら、11月6日には4作目となるEP『Drown / You & I』をリリース。わずか8カ月で4作というペースだけでも驚異的だが、デビュー作が各配信サービスでいきなりランキング1位を記録すると、続く楽曲でもヒットを連発。さらに、これまでに発表した全表題曲および複数のカップリング曲がテレビドラマや映画、CMのタイアップを獲得するなど、あらゆる意味で新人離れした存在感で注目を集めている大型ニューカマーだ。
彼女の同番組への初出演を機に、今年リリースされた4作のシングル曲を振り返りつつ、その魅力に迫ってみたい。
世界標準のデビュー曲「inside you」
3月6日リリースの1st EP表題曲「inside you」はONE OK ROCKのToru(Gt)がプロデュースを手がけ、テレビドラマ『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』(フジテレビ系)のオープニングテーマに起用された。
楽曲はピアノの音色がメインのデジタルサウンドで、スケールの大きさを感じさせるスローな16ビートで構成されている。とは言えバラードという印象ではなく、テンポは遅いがアグレッシブな楽曲だ。小細工なしのストレートなコード進行と迷いのないナチュラルなメロディラインによって、miletというボーカリストの声色や声量といった“基礎体力”部分にフォーカスされた作り。静と動のコントラスト、強いビート感、ファルセットの多用などによって、Coldplayなどにも通ずる世界標準のサウンドが実現している。
声質は、LeyonaやKUMI(LOVE PSYCHEDELICO)らを連想させるような、雄大さをはらんだスモーキーボイス。その人間味あふれる力強いボーカルがエディット感の強いトラックと融合することで、極めて現代的な手触りの音像となって結実する。サビを中心に英詞が積極的に使われていることも相まって、非常に洋楽的でもあるのが大きな特徴だ。
この過度に洋楽的な楽曲がJ-POPシーンで広く受け入れられた要因はどこにあるのか。ドラマの世界観とマッチしていたことや、単純にテレビで毎週オンエアされることで多くの人の耳に届きやすかったなど様々なファクターが考えられるものの、音楽的な要因としては「Aメロ〜Bメロ〜サビ」という“純J-POP的”な楽曲構成が奏功した可能性がある。洋楽サウンドをまといながらも構造としては非常にJ-POP的であることが、日本のリスナーに刺さりやすかったひとつの理由ではないだろうか。
壮大なオーケストラサウンドの2nd
5月15日リリースの2nd『Wonderland EP』では、アニメーション映画『バースデー・ワンダーランド』(原恵一監督/2019年)とコラボレーション。表題曲「Wonderland」は同作のイメージソング兼挿入歌となっており、前作に引き続きToruがプロデュースを行った。
前作とはうって変わって、いきなり壮大なストリングスアンサンブルが展開される“映画音楽っぽい”イントロで度肝を抜かれる。追い打ちをかけるようにアコースティックギターの素朴なアルペジオが優しく重なっていく、どこまでもオーガニックなナチュラルサウンド。Aメロはそのままアコギ1本をバックに歌われ、miletのボーカルも実にリラックスしたムードだ。ハードでシリアスな前作とはまるでベクトルの違う、牧歌的で温かみのある歌唱が楽しめる。
リズムとしてはワルツを基調とし、歌メロはカントリーやヨーデルの要素も内包しており民族音楽的だ。そこにオーケストラサウンドが重なり、サビではロックドラムも入ってくることから、ある意味でくるりを思わせるようなボーダレス感が味わえる。素朴さが前面に出た作りではあるものの、サビのメロディ自体はしっかり“ボーカル力”を際立たせるもので、有り体な言い方をすれば「歌のうまい人が歌わないと成り立たない」楽曲にもなっている。
デビュー作とこの2作目を聴き比べることで、miletが持つボーカリストとしての高い対応力がよくわかるだろう。トラックが最新のデジタルサウンドであるか伝統的なオーケストラであるかによらず、どんな音に対しても自身の歌を魅力的に響かせる能力があることを、彼女はたった2曲で完全に証明してみせた。