miletは、なぜ新人離れした存在感を放つのか 洋楽的サウンドメイクと確かな“J-POP”感

J-POP的要素をふんだんに取り入れた3rd

 8月21日リリースの3rd『us』では、表題曲が東村アキコ原作のテレビドラマ『偽装不倫』(日本テレビ系)の主題歌となった。なお、『ベストヒット歌謡祭2019』ではこの楽曲が披露される予定だ。

milet「us」MUSIC VIDEO(日本テレビ系水曜ドラマ『偽装不倫』主題歌)

 これまでの2曲と明確に違う点として、“頭サビ”(楽曲の最初にサビを持ってくること)であることが挙げられる。また、「付点8分、付点8分、8分」という、いわゆる「2拍3連」に似たリズムをメロディの要所に使っているのも大きな特徴だ。どちらもJ-POPでは伝統的に多用されている作曲テクニック。さらに〈好きだと言ってしまえば 何かが変わるかな〉というフレーズが持つJ-POP度も極めて高く、徹底的なまでにJ-POPたろうとする確固たる姿勢が見て取れる。

 サウンド的にはアコギのストロークをアタッキーなシンセサイザーの代わりに使ったかのようなEDM系の音像が特徴で、シンセストリングスなど電子音も多用。リバーブの使い方も特徴的で、空間を強く意識させる音作りがなされた。前2作と比べるとさほどビート感を強調しておらず、そのあたりからも「J-POPらしい音を」という強い意思が感じられる。

 それまでどちらかというと日本人離れした魅力を強調してきたmiletだが、今作では少し“お茶の間”に寄り添った感がある。ボーカリストとしての超然性はまったく失われていないものの、この曲で初めて彼女に親しみやすさを感じたリスナーも少なくないはずだ。

UKロック感も楽しめる4th

 そして11月6日、4作目『Drown / You & I』がリリースされた。表題曲の「Drown」はテレビアニメ『ヴィンランド・サガ』(NHK総合)第2クールのエンディングテーマに、「You & I」は花王『フレア フレグランス&SPORTS』のCMソングになっている。

milet「Drown」MUSIC VIDEO(「ヴィンランド・サガ」エンディングテーマ)

 「Drown」はマイナー調の物憂げな楽曲。サウンドの中心はアコギの刻みとストローク、そして厚いコーラスで、低音の存在感は最小限度まで絞られ、ドラムの音数も抑えられた。テンポも遅く、構造的にはメロウな音像となるはずの楽器構成であるにもかかわらず、実際にはひりひりとした緊張感ある音場が形作られている。派手さを控えたトラックでボーカルの強さをとことん強調する手法には、ある面ではBjörk的なフィーリングも感じられるだろう。

 一方の「You & I」はメジャーキーの解放感あふれる歌メロを備えた、エレキギターのシークエンスとサビの4つ打ちビートが印象的な1曲。バンドサウンドとダンスミュージックを融合させた90年代UKギターバンド勢のアティテュードと重なる部分も見て取れるが、バンドサウンド感はほとんどなく、あくまでもエレクトロサウンドとして成立させているあたりが現代的だ。ペダルポイント(持続音)の使い方も、非常にUKっぽい。

見た目は洋楽、頭脳はJ-POP

 作品をリリースするたび、Primal Screamばりに作風をがらりと変化させてきているmilet。しかしながら印象はまったくばらけていない。それはひとえに彼女のボーカルが持つ強度と、全曲に通底するソングライティング感覚によるものだろう。サウンドの方向性やメロディライン、歌い回しなどが日本人離れしていながら、必ずどこかに確かな“J-POP感”が厳然と存在する、独特の音楽性。“洋楽っぽさ”が大きな特徴ではありながらも、単なる模倣には終わっておらず、日本人であることの誇りやJ-POPという音楽に対する強い愛情も見受けられる。そこが彼女の最大の魅力であり、武器でもあると言えるだろう。

■ナカニシキュウ
ライター/カメラマン/ギタリスト/作曲家。2007年よりポップカルチャーのニュースサイト「ナタリー」でデザイナー兼カメラマンとして約10年間勤務したのち、フリーランスに。座右の銘は「そのうちなんとかなるだろう」。

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