『Free Soul T.K.』インタビュー
橋本徹が語る、<T.K. Records>を聴き直す理由 Free Soulコンピが繋げる70年代と今
『Free Soul T.K.』には多数のシングルオンリーのレア曲も収録
ーーFree Soulが始まった90年代と、今の違いで言うと、ネット環境が成熟した今は、レア曲がどんどん発掘~共有されていることも挙げられると思います。
橋本:それが今回、選曲していてテンションが上がった大きな理由の一つでもあります。1曲目をとてもレアなんだけど大好きな7インチ、ワイルドフラワーの「You Knock Me Out」でっていうのは、最初から決めていました。
ただ、ネット上のデータベースや評価が僕の選曲に影響を与えているかといったら、それはないです。高価なシングルオンリー曲でも、安価なアルバム収録曲でも、あくまで僕がいいと思う曲を選ぶという点に変わりはないので。例えば、テリー・キャリアー「The Love We Had」のフレディ・ヘンリーによるカバーを入れていますが、アントニオ・カルロス・ジョビン『Wave』を模したジャケットやアル・クーパーのプロデュース、AOR趣味の楽曲には触れられていても、このカバーが話題になっているのを聞いたことがないんです。でも、これを選ぶのがFree Soulらしさなんですね。
ーーディスク1の15曲目、ルー・カートンの「Island Girl」が入っている『Just Arrived』は、もともと年配のソウルファンに人気が高いものです。それを、曲単位の魅力にフォーカスして広く紹介し直すというのは、Free Soulの真骨頂と思います。
橋本:アルバムの評価とは違う文脈で捉え直す、というのはそうですね。特にこの曲はカリブ~アイランド・フレイバーが心地よくて7インチもあることから、近年DJにもオーディエンスにもロバート・パーマー「Every Kinda People」のような感覚で愛されてますよ。
ーーではあらためて、個人的な観点で思い入れのある曲をいくつか教えてください。
橋本:クラレンス・リードは、ブロウフライという変名でもやっているエロ親父のイメージも強い人ですが、ワイルドフラワーの「You Knock Me Out」やリード・インク「What Am I Gonna Do」を始め、僕にとって大切な、愛してやまない曲をたくさん書いている人で。実は『Free Soul T.K.』には、クラレンス・リードの書いた曲が一番多いんですね。Free Soulらしいギターカッティングが快い本人の「Ruby」も含めて。日本だと、パブリックイメージと作品が合う人の方が人気が高いですけど、その二面性というか、本当の才人とは彼のような人なのではと思います。
ミルトン・ライトの「Keep It Up」は、日本ではまだ誰もDJパーティでかけていない頃、Free Soulを始めた1994年に、イギリス人からエイッと大枚はたいて買ったんです。ソウルのレコードでは初めての高い買い物だったこともあり、思い出深いですね。こういうステッパーズソウルの曲は、DJをやるようになりフロアで踊る人たちを見ていて、Free Soulのパーティに合うなと思ったんです。今でこそカバーやリエディットがいろいろ生まれてますが、そうしてクラブの定番になっていった曲なんですね。
同じ頃、イギリスから出たブートレグのコンピで聴いて好きになったのがロウ・ソウル・エクスプレスの7インチ「The Way We Live」です。90年代からDJパーティでは「Keep It Up」に繋げてかけていたんですけど、このコンピでもDJプレイを再現するように続けて収録しています。
サンプリングやカバーでも名を馳せたマイアミ・ソウル・クラシック
ーー曲順のこだわりについて、さらに教えていただけますか。
橋本:今回は、90年代の状況を思い出しながらというところもあり、ディスク1の前半でまずDJパーティの盛り上がりを再現するように、オープニングのワイルドフラワー「You Knock Me Out」から早めにメアリー・J. ブライジや小沢健二に引用されフロアを華やかに彩ったベティ・ライト「Clean Up Woman」に行きたいなと考えました。
そして先ほど触れたKCの「Ain't Nothin' Wrong」から、このコンピのハイライトとなるように、ラティモアによる絶大な人気を誇るアル・クーパーの名曲「Jolie」のカバーやリード・インク「What Am I Gonna Do」まで、コード感やグルーヴ感が合う曲を並べていきました。
これに限らず、選曲する際はサンプリング曲やカバーをうまく使いたいというのはありますね。だからというわけではないですが、当然ラティモアは藤原ヒロシさんとUAがカバーした「Sweet Vibrations」も収めてます。ファンキー・ブラウンの「Let's Make A Baby」は、オリジナルのビリー・ポールよりも、マッド・プロフェッサー主宰の<Ariwa>発のラバーズロックカバーで親しんでいた曲ですね。「90% Of Me Is You」は昔からDJでかけ続けている曲で、近年はアムラルズ・トリニダード・キャヴァリアーズ・スティール・オーケストラによるスティールパン・カバーも、よくかけています。グウェン・マクレーによるバージョンがメイン・ソース「Just Hangin' Out」でサンプリングされたり、藤原ヒロシさんなども早くからDJでかけていたりで、東京でも人気があった曲ですけど、ここには7インチオンリーの、ヴァネッサ・ケンドリックによる原曲も入れているのがポイントですね。
AOR~シティポップ風味やリズムボックスの多用でT.K.が今また時代の音に
ーー先にも触れられていたチョコレートクレイもそうですが、橋本さんが以前『Free Soul Drive with Bobby Caldwell』というベスト盤を選曲されていたボビー・コールドウェルが在籍した、<Cloud>というサブレーベルがあったりと、T.K.は今のAOR、それにシティポップリバイバルの文脈でも語られるべきレーベルと思います。
橋本:ディスク1の後半、14曲目から20曲目は特に、T.K.のそういったブリージンな側面を出したいと選んだ曲を並べています。マイアミのT.K.が、シカゴやフィリーやメンフィスと違ったのは、東京には湘南があるようにシーサイドが身近にあること、アーバンリゾート的な側面もあることが重要で。そういった地理的な理由も、T.K.作品とシティポップの相性の良さに繋がっているんじゃないかな。東京よりもっとビーチと一体という意味ではハワイのAORとの親和性も感じるし。
ーー「Street Love」が収録されたスパッツも、僕は大好きなんです。
橋本:スパッツはまさに、ブルーアイドソウルそのものですね。よく覚えているのが、Free Soulを始めた25年くらい前にDJでかけていたら、「スパッツいいよね!」って声をかけてくれたのがGREAT3の片寄明人くんだったことです。スパッツってその頃は、クラブに来るような人たちは知らなかったから。今では大人気のジョン・ヴァレンティをかけていて、最初に「最高!」と意気投合したのも彼だったな。ーーAORファンにも人気の高いレオン・ウェアも、『Inside Is Love』がT.K.傘下の<Fabulous>から出ていたおかげで2曲入っています。
橋本:レオンは僕にとってはやっぱり、マーヴィン・ゲイ『I Want You』の立役者ということで、愛してやまない存在ですが、彼がミニー・リパートンに書いた「Inside My Love」など本当に好きな曲も多くて、彼を追悼して一昨年『Free Soul. the classic of Leon Ware & His Works』というコンピも作りました。彼がアーバンな路線に向かったのは、T.K.の面々からの影響も大きかったんじゃないかなと思います。だからT.K.でつくった『Inside Is Love』はキャリアの転機になったアルバムと言っていいですね。
ーーおもしろいのはこのコンピの流れで聴くと、確かにレオン・ウェアとT.K.サウンドには相通じるものがあって、とても興味深いですね。
橋本:この時代のT.K.サウンドの影響力が窺い知れますよね。それによってレオン・ウェアのアーバンでクリスタルな魅力が開花するという。あとはやはり、今回収録した「Love Is A Simple Thing」はまさにそうですが、この時期の彼はブラジルのマルコス・ヴァーリと蜜月関係にあって。70年代末から80年代初頭にレオンとマルコスがやっていた、ラテンやブラジリアン、それにAORやブギーのニュアンスは、すごくT.K.の、僕らが好きなテイストとシンクロするんですね。
ーー最後に、T.K.作品ならではの聴きどころをあらためてお願いします。
橋本:本当にいろいろありますが、最近特に思うのは、T.K.で多用されているリズムボックスって、機械なのに人間ぽいなということです。2010年代はそういう感じに惹かれる人が増えているんじゃないかな。ジェイムス・ブレイクやボン・イヴェール、カニエ・ウェストなどが象徴的ですが、機械で加工したロボ声の方がヒューマンなエモーションを伝えられるということにも似ている。リズムボックスやTR-808が今また注目されるのは、それと近いと思うんですね。機械的なサウンドの方が人間的な感情を伝えられる場合があって、そこに惹かれてしまうという。
ーーリズムボックス的なサウンド、つまりT.K.作品で多く聴けるサウンドは今また、時代の音になっているということですね。
橋本:すごくいい締めになりましたね(笑)。そういうことも含めて、本当に最高の音楽ばかりなので、このコンピやT.K.作品は今こそ、広く聴かれて欲しいですね。
(取材・文=小渕 晃/写真=はぎひさこ)
■商品情報『Free Soul T.K』
発売:11月6日(水)
<2CD>
価格:¥2,300(税抜)
Disc-1:
01. Wildflower / You Knock Me Out
02. The 13th Floor / Sweet Thang
03. Betty Wright / Clean Up Woman
04. KC And The Sunshine Band / Ain't Nothin' Wrong
05. Latimore / Jolie
06. Reid, Inc. / What Am I Gonna Do
07. Timmy Thomas / You're The Song (I've Always Wanted To Sing)
08. Milton Wright / Keep It Up
09. Raw Soul Express / The Way We Live
10. George McCrae / Rock Your Baby
11. Little Beaver / I Like The Way You Do Your Thing
12. Jerry Washington / Don't Waste My Time
13. The Beginning Of The End / Funky Nassau, Pt. 1
14. Herman Kelly & Life / Share Your Love
15. Lew Kirton / Island Girl
16. Milton Wright / Be With Me
17. Paulette Reaves / Jazz Freak
18. Foxy / Let's Love
19. Brandye / How Long
20. Facts Of Life / What Would Your Mama Say
21. Latimore / Sweet Vibrations
22. Little Beaver / Party Down, Pt. 1
Disc-2:
01. All The People feat. Robert Moore / Cramp Your Style
02. Gwen McCrae / All This Love That I'm Givin'
03. Willie & Anthony / I Can't Leave Your Love Alone
04. Betty Wright / Gimme Back My Man
05. Spats / Street Love
06. Little Beaver / Concrete Jungle
07. Gwen McCrae / 90% Of Me Is You
08. Milton Wright / The Silence That You Keep
09. Betty Wright / Tonight Is The Night
10. Timmy Thomas / I've Got To See You Tonight
11. Leon Ware / Love Is A Simple Thing
12. Tropea / Can't Hide Love
13. J.P. Robinson / You Can Be A Lady
14. The Billion Dollar Band / Love's Sweet Notions
15. Clarence Reid / Ruby
16. Irene Reid / You Made Me Want To Dance
17. Jimmie "Bo" Horne / If You Want My Love
18. Johnny K / I Got Bills To Pay
19. Vanessa Kendrick / 90% Of Me Is You
20. Charles Johnson / Good Good Lovin'
21. Leon Ware / Inside Your Love
22. Freddy Henry / The Love We Had (Stays On My Mind)
23. Funky Brown / Let's Make A Baby
24. Timmy Thomas / Why Can't We Live Together
■イベント情報
Free Soul 25周年記念「Free Soul Rhythm Island」
日時:11月29日(金)24時から翌5時まで
場所:渋谷・duo MUSIC EXCHANGE
出演:Live / Wack Wack Rhythm Band、TAMTAM
DJ / 橋本徹 (SUBURBIA)、山下洋 (Freedom Suite)、DJ JIN (Rhymester)、松田chabe岳二 (cubismo grafico/LEARNERS)、中村智昭 (MUSICAANOSSA)、松下大亮 (Flight Free Soul)、aribo (Flight Free Soul)、BEN (Noa Noa/Piece of Peace)
■橋本徹(SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』『音楽のある風景』『Good Mellows』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは340枚をこえる。USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。橋本徹のカフェ・アプレミディ/フリー・ソウル/サバービア