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『Heisei Free Soul』インタビュー

Free Soul 25周年記念特別企画 『Heisei Free Soul』(平成フリー・ソウル)橋本徹インタビュー

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 シリーズ通算120作以上を数え、25周年を迎えた大人気コンピレーション『Free Soul』。8月7日にリリースされた『Heisei Free Soul』は、令和初のシリーズ最新作ということもあり、元号が変わるのを機に平成元年(1989年)から各年を象徴する名作が全31曲収録されている。本作の収録曲は、時代を彩った名曲の数々を、平成とともに歩んできた『Free Soul』ムーブメントとともに一望することもできるセレクションとなっている。今回は、セレクト曲を辿りながら「CDの時代とクラブミュージックの隆盛の始まり」でもあった平成の時代背景と音楽の変遷について橋本徹に語ってもらった。(編集部) 

平成とともに歩んできたFree Soul

――今回、橋本さんの最新コンピレーション『Heisei Free Soul』が発売されますが、まずは今年で25周年を迎えるFree Soulがどういうものなのか教えてください。

橋本:僕は大学4年生のときが平成元年(1989年)だったんですけど、当時からバイト代を貯めてレコードを買って聴くのが好きでした。その後、就職してからもレコードに給料のほとんどをつぎ込んで、音楽好きとしての生活が続いていたんですが、その中で既存の音楽メディアではあまり紹介されないけれども自分の好きな音楽、愛聴盤や愛聴曲がたくさん溜まってきたんですね。そんな中で、出版社に就職していたこともあり、自分の好きな音楽や映画、デザインを紹介する『Suburbia Suite』というフリーペーパーを90年暮れに始めました。古くて知られていないけど、今の自分たちのセンスにフィットする好きな音楽を、ディスクガイドやFM番組、クラブでのDJパーティーなどで紹介しているうちに、92年から93年にかけて大きなブームになって。

――『Suburbia Suite』は、いろんな意味で当時としては画期的でしたよね。

橋本 いわゆる“Zine”の先駆け的な存在でもありましたし、音楽的にもジャンルや新旧を自在に横断するというのが、とてもフレッシュに映ったと思います。レコードを紹介する文章の軽やかなタッチなんかもね。最初は60~70年代の映画音楽やソフトロック、ブラジリアン~ボサノバ、ジャズやラテンが中心だったんですけど、リアルタイムで聴く音楽シーンでは当時ブラン・ニュー・ヘヴィーズやジャミロクワイが台頭してくるんです。

――90年代前半はUKソウルやアシッドジャズがすごく盛り上がっていましたよね。ソウル・Ⅱ・ソウルはもちろんマッシヴ・アタックとか。

橋本:どちらもブリストルのサウンドシステム、ワイルド・バンチからの流れですね。80年代末の東京、もっと言うと僕が大学生の頃に興味を惹かれたのは、そういったソウル・Ⅱ・ソウルなどUKソウルの源流ですね。それと英国ならではの“ジャズで踊る”ムーブメントとモッドカルチャーがクロスするあたり。Free Soulはそういう音楽と同時代性や兄弟関係を感じる70年代ソウル周辺の音楽の魅力を仲間と分かち合えたらという思いで、1994年の春にDJパーティー、ディスクガイド、コンピレーションCDをスタートさせました。

――三位一体という形ですね。

橋本:それが東京ならではのとても大きなムーブメントになっていきました。当時の日本の音楽シーンを見ても、オリジナル・ラヴ『風の歌を聴け』がオリコンチャートで1位、小沢健二の『LIFE』が大ヒットしたり。

――リイシューでもシュガー・ベイブの『SONGS』がCD化されたり。

橋本:そうですね。時代や街の空気感がグルーヴィーでメロウなソウルミュージック周辺と共振する雰囲気でした。そのときの気持ちを受け継ぎながら、東京で生活する自分が、連続する物語のように作り続けてきたのがFree Soulのコンピレーションシリーズです。90年代においては、爆発的な人気があったDJパーティーやディスクガイドの影響力が強く、それを通して自分と同世代やちょっと下の人たちは楽しんでくれたと思うんですけど、やっぱり長く続けていくと、形に残るものとして次の時代に向けて残っていくコンピCDの存在は大きいと強く感じます。最近のリスナーの方は、むしろCDの方でFree Soulを知ってくれてるんじゃないかというくらい役割は大きいですね。

――今年で25周年、総タイトル120枚以上の一大シリーズと呼べるものになっていますね。

橋本:当初はDJパーティーでかかっている曲を中心にオムニバス形式でプレゼンテーションしていましたが、一時期からソウルミュージックとその周辺の音楽の全体像を伝えるという意味でレーベル編やアーティスト編をリリースしたり、90sや2010sのディケイドで切ってみたり、ハワイ、ジャマイカ、ブラジルといった地域で切ってみたりと、いろんなサブラインも登場しています。

――そんな中、平成という時代を総括するような『Heisei Free Soul』がリリースされます。

橋本:Free Soulは平成とともに歩んできたという実感があるので、ちょうど元号が変わるタイミングで各年に生まれた象徴的な名作をまとめたものが作れて嬉しく思います。年によってセレクトの基準は複合的で、単純に個人的な思い出と結びついている曲もあれば、誰もが知るヒット曲が入っている年もあるし、DJパーティーの人気曲はもちろん、東京ならでは、渋谷ならではという、ある種の世代やライフスタイルに愛された曲が入っているケースもあります。

――いい感じにバラけながらも統一感がある全31曲ですね。

橋本:実は楽曲の許諾を揃えるのが大変だったんですけどね。レコード会社の担当者の方には本当にご苦労をおかけして(笑)。本来は令和初日の5月1日にリリースする予定だったんですが、選曲に妥協はできないということで発売延期を重ねてしまいました。ユニバーサルという世界で最も豊富な音源を有しているレーベルだけでなく、ソニーを始めとするやはり多くの有力音源を保有しているメジャーレーベル、さらにいくつかのインディペンデントレーベルのご協力もあって、納得のいく31曲が揃い、リリースに至りました。おまけに2枚組なのに価格も安くしてくれて、本当に感謝しかないですね。

平成の始まりはCDの時代とクラブミュージックの隆盛の始まり

――ここからは『Heisei Free Soul』の聴きどころについて詳しくうかがっていきたいと思います。

橋本:ジャンル的にはやはりソウルミュージック周辺が中心ですが、ジャズやヒップホップやロックも入っていて、総体としてのFree Soul的な音楽性をアピールできたと思います。僕はもちろんリスナーの方が大切な思い出を胸に聴けるような曲、その時代を思い浮かべながら前向きな気持ちになれるような曲が連なっていればいいと思ってセレクトしました。今の時代はサブスクリプションサービスが発達して、それを中心に音楽を聴いている方も多いと思いますが、逆にコンピレーションCDならではの魅力を感じてもらえるように、置かれてるときに素敵なアートワークだなと思ってもらえることとか、ライナーノーツでその年の社会的背景に触れたりして、リスナーがよりその時代にタイムスリップしながら聴けたらいいな、というような意識がありましたね。

――最初の2曲、89年と90年はソウル・Ⅱ・ソウルとディー・ライトですね。クラブミュージック的な方法論がポップミュージックに入ってきた時代です。

橋本:平成になったのと時を同じくして、CDと12インチシングルの時代が始まりましたね。新旧、各ジャンルのリリースの細かさという意味でも飛躍的に情報量が拡大した時代です。意識せず自然にその年を思い出したら、クラブミュージックの登場と隆盛という当時の空気感がソウル・Ⅱ・ソウル、ディー・ライト、(収録候補だった)デ・ラ・ソウルといったナンバーに反映されたと思います。

――トライブ・コールド・クエスト(以下:ATCQ)やTLCなど、ヒップホップの影響力も90年代は大きかったですね。

橋本:平成はヒップホップがポピュラリティーを得た時代ですね。それによってサンプリングソースやカバー曲など、それまで目が向けられていなかった古くていい音楽への道筋が示されたことも重要でした。

――Free Soulをはじめ、CDコンピレーションも平成の音楽シーンで大きな役割を果たしましたね。例えば『Free Soul Impressions』には、ウェルドン・アーヴァインの「We Gettin’ Down」が収録されていますが、これは今回収録されているATCQの「Award Tour」でサンプリングされている曲です。

橋本:Free Soulシリーズには、ATCQのサンプリングソースがたくさん入っていますね。Free Soulのコンピは、単純に聴いていい気分になれたり、ポジティブな気持ちになれたりメロウな雰囲気になれたりという部分もあるんですが、音楽的な深掘りをして古いけどいい音楽と出会うための礎、いくつかの違うジャンルを横断するための架け橋にもなっているはずです。

――ライトな部分とディープな部分との二層構造になっているという。『Free Soul Avenue』(1995年)にSMAP「がんばりましょう」のインスパイア元になったナイトフライトの「You Are」が入っていたり、『Free Soul River』(1996年)にオリジナル・ラヴに影響を与えたスティーヴン・スティルスの「Love The One You’re With」が入っていたりと、当時学生だった僕にとって発見が多かったです。

橋本:J-POPやヒップホップなど、リスナーがそれぞれ興味を持っているジャンルの音楽に対して開かれているということですね。音楽を好きになったとき、いろいろな好奇心を刺激してくれるトピックがたくさんあったのが90年代だったと思います。

――90年代くらいまでの旧来の音楽ジャーナリズムには、サンプリングカルチャーやライブの比重が下がることへの否定的な言説もあったと記憶していますが、それから30年近く経って強く感じるのは、90年代はとても音楽的に豊潤な時代だったということです。

橋本:メディアと音楽の関係性で言うと、平成という時代は旧譜のCD化も進み、新譜と同列に聴けるようになったことも大きなトピックですね。さらにアナログ12インチやリミックスなど、限りなくバージョンが増殖していくような感じで、センスの差異を楽しめる人にとってはすごく満喫できる時代でした。

――そうですね。『Suburbia Suite』に載っているようなレコードがCDで再発されるのが楽しみでもありました。その中でロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズのアルバムなどが“渋谷系のバイブル”みたいに神格化されたりもして。もうひとつ橋本さんの仕事を振り返って重要だと思うのは、「日常の中で音楽を聴く」という提案です。それまでは少し極端に言うとオーディオの前で真面目に音楽と対峙するのが「正しい音楽ファンのあり方」とされていましたが、コーヒーを淹れながらとか夜寝る前にとかドライブしながらなど、気分に合わせてのリスニングスタイルがとても新鮮に映りました。

橋本:『Suburbia Suite』やFree Soul、そしてカフェ・アプレミディ、Good Mellowsもそうですが、日常の中でのシチュエーションに即して音楽を聴くという提案はそれまでは少なかったので、だからこそ広く人気を得たのではないでしょうか。CDは曲をとばせたり曲順を変えられたりするから、リスニングスタイルが自由化したというのもあるかもしれませんね。僕自身は全然とばしたりしないタイプだけど(笑)。

――CDの時代になって収録時間も80分になりましたからね。ビートルズの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』は、彼らの最高傑作と言われることも多いアルバムですが、やはりアナログ盤の時代の名盤というか、アートワーク含め総合芸術としてレコードで聴くことに価値があるという側面もあるように思います。

橋本:あれはレコードというアートフォームならではの表現と、1967年という時代とのマッチングが生んだ名作ですよね。Free Soulのコンピレーションは音楽好きの良心として毎回80分入れるスタイルだけど、それもCDの時代だからこそだと思いますし。プレイリストの時代は……何曲入れるんでしょうね? 僕はとめどなく入れてしまって、よくたしなめられるんですけど(笑)。

――そういう意味では、CDメディアとFree Soulの親和性というのは高かったですね。

橋本:そうかもしれません。CDの時代がFree Soulを用意した側面というのは、多分にあると思います。旧譜を新譜として聴けるし、自分なりに自由にカスタマイズすることができるという意味でも。Free Soul以降、音楽ファンが好きな曲だけ集めて自家製コンピレーションやミックスCDを作るというのがすごく流行しましたよね。そういった下地がサブスクリプションでプレイリストを作るという2010年代のリスニングスタイルにつながっている部分もあると思います。だからシャッフルで聴かれるにしても、曲順や世界観など音楽の魅力を大切にすることを忘れないでほしいなという気持ちはありますね。

――「CDメディアと平成という時代はほぼ軌を一にしていた」という意味のことを橋本さんは『Heisei Free Soul』のライナーで書かれています。

橋本:CDがいよいよ失われていく時代になって、CDへの思い入れが増してきたという面もあるかもしれません。今回のコンピも、サブスクリプションなら半日でできてしまうものを、半年かけて許諾を取りリスナーに聴いてもらう。プレイリストに比べて明らかに不利な条件下で「CDを選んでもらう」という気持ちはすごく強いですね。だからこそ、それを裏切らない「モノとしての魅力」を大切にしたいと思って制作しました。音楽としての魅力だけでなく、アートワークやライナーなどの魅力も含めて提示できたらと。

――90年代には『Suburbia Suite』やFree Soulが日常を心豊かにしてくれたり、素敵なレコードジャケットを家に飾って楽しんでいる人も多かったですよね。音楽とアートワークの醸し出す雰囲気というか相乗効果が気分を良くしてくれるし。

橋本:Free Soulがなぜ90年代にあれだけ大きな人気を得たか、なぜこんなに長く続いているのかを考えると、選曲のエバーグリーン性と並んでジャケットの存在はとても大きいと思います。

      

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