fripSide「only my railgun」から積み重ねた10年 南條愛乃と八木沼悟志が互いの変化を語る

fripSide「only my railgun」から積み重ねた10年

共有できる音楽が増えたからこそ表現方法も増えた(南條)

ーーそれってものすごい労力ですね。で、そういう八木沼さんが書いた歌詞を、この10年で一番歌ってきたのが南條さん。八木沼さんの歌詞に変化を感じた瞬間はありましたか?

南條:ありました。それこそsatさんが「fripSideの歌詞はこういうものだという縛りが」って話をされていましたけど、以前はfripSideの歌詞で使われる単語にはもっと限定的で、もっと無機質なものが多かったんですよ。有機的なものや日常感があるものは極力使わず。

八木沼:うん、排除していたね。

南條:それが、如実に変わったと感じたのが『infinite synthesis 4』(2018年発売)の頃。そのちょっと前ぐらいから兆しはあって、「ああ、こういう単語も使うんだ」と思うことが徐々に増えていったんです。以前は漠然としていた歌詞がもっと限定的になっていたり、もっと親密性があるとか身近に感じられる歌詞が徐々に増えてきて。

 ただ、タイアップ曲で使っている言葉は作品によっても変わっているとは思うんですけど、作り方自体は昔から変わってなくて。最初に聴くとわからなかった歌詞の意味が、アニメを全部観てから読み返すと「なるほど~」みたいにあらすじを知れるんです。でも、ただ歌詞だけを読んでもストーリーの展開やオチまではわからないから、ネタバレにはならない。作品を全部観てからだと「ここは誰のこと、ここではこのことを歌っていたんだ」とか「これは第何話のことだったんだ」とか、非常に練られているのは昔から変わらない部分だと思います。

八木沼:歌詞に関しては、南條さんと一緒にやってきて、彼女の歌詞に引っ張られた部分もあるんですよ。「あ、こういう表現もあるんだ」とか「これは心が通っている文章だな」とかいろいろ気づかされることも多かったし。なので、個人的には「whitebird」(2012年12月発売のアルバム『Decade』収録曲)というバラードの歌詞を書いたときに、「あ、俺こういう歌詞も書けるんだ。やったな」って思いましたね。今回のアルバムに収録された「Love with You」もアニソンタイアップ(テレビアニメ『寄宿学校のジュリエット』オープニングテーマ)でしたけど、10年前ならこの歌詞をアニメに充てられなかったと思うんですよ。

南條:それは歌っていても感じました。そもそも、私が加入した時点でfripSideというユニットはすでに長く続いていたわけだし、そこにお客さんもたくさん付いていたので、守らなくちゃいけない形というのが絶対にあったと思うし、そうあって当然だったと思うんです。それが、私が加入して第2期が始まり、新しい楽曲も増えて、お客さんも入れ替わりがあったり増えたりして、今いる人たちで共有できる音楽が増えたからこそ表現方法も増えた。大勢のみんなで作り上げていったからこそ、この広がりができたのかなと思います。

『infinite synthesis 4』と新作は表裏一体(八木沼)

ーーここからはニューアルバム『infinite synthesis 5』について話を聞いていきたいと思います。『infinite synthesis』シリーズは八木沼さんの中でそのときに旬なものや夢中になっているものが反映されているそうですが、今回そういったものは?

八木沼:季節感というのを大切にしていて。fripSideは秋口から冬にかけてアルバムを出すことが多いんですけど、今回はタイアップ曲に明るめのものがあったので、春にスポットライトを当てた曲もあれば、やっぱり冬でちょっと暗いねっていう曲もあるという(笑)。

ーー「rain of blossoms」なんて、まさに春の曲ですものね。

八木沼:桜の曲ですね。これは鍵盤で遊んでいたら、「このペンタトニックスケールにこのコード、いいじゃん。気持ちいい」ということですぐに録って。そこから、この曲に関しては齋藤真也さんにアレンジしてもらったほうがいいものになるという予感があったので、彼にお願いして完成に至りました。

南條:若干、和っぽいですよね。前にどこで聞いたか忘れちゃったんですけど、『infinite synthesis』シリーズってその前に出たアルバムと対になっているという話をsatさんがしていて。

八木沼:うん、してたね。

南條:だとすると、今回は『infinite synthesis 4』と対になっているってことだと思うんです。『infinite synthesis 4』って王道のfripSide的強さみたいなものがめちゃくちゃ詰まっていて、ライブ映えしそうな曲ばかりですけど、今回の『infinite synthesis 5』はしっとりめの曲が多いじゃないですか。『infinite synthesis 4』がリード曲だらけだとしたら、『infinite synthesis 5』はわりとカップリング曲揃いというイメージ。

八木沼:そこに気がつきましたか(笑)。僕らのユニット名って、レコードのB面を指す言葉なんですよね。本当のスペルは「r(fripSide)」じゃなくて「l(flip side)」なんですけど。なので、『infinite synthesis 4』と『infinite synthesis 5』って実は表裏一体のイメージなんです。

南條:だから『infinite synthesis 4』的な強さを求めて新作を聴いたら、もしかしたら最初に「えっ?」って思うかもしれないけど、カップリング曲って噛めば噛むほど味が出るようなものが多いじゃないですか。そういう楽曲が今回は特に多くて、大人風味という印象を受けたんです。fripSideをやっている身からすると、これもすごくfripSideらしいなと思うので、ファンの方たちにどう楽しんでもらえるのか、手元に届いてからが楽しみですね。

八木沼:たぶん『infinite synthesis 4』のほうがキャッチーだとは思うんです。でも、『infinite synthesis 5』はもっと奥行きがある感じがする。

南條:だから2枚合わせて聴いてほしいし、『infinite synthesis 4』をもう一度隣に置いてほしいですね。

ーー特に『infinite synthesis 5』は、じっくり聴き込んで浸りたくなる作品ですよね。

南條:そうなんです。移動中とかにじっくり聴きたいなって。『infinite synthesis 4』は盛り上がれるので、一回聴き終えたら一回休憩みたいな感じだったんですよ。だけど、『infinite synthesis 5』は繰り返して聴けるアルバムになっていると思います。きっとこれも『infinite synthesis 3』(2016年発売)までだったらできない構成ですよね。

10年経って思うのは「時間は有限なんだ」(南條)

ーーアルバムリリース直後の11月4日からは、神戸を皮切りに全国ツアーもスタート。しかも、初日は『only my railgun』リリース日です。

南條:そこに合わせてきてますね(笑)。

八木沼:10周年ですからね。神戸からか。確か「only my railgun」って、第15回アニメーション神戸賞で賞をもらったよね。

南條:ありましたね! それもあって神戸にしたのかな。

八木沼:俺、そのときのトロフィーを持っていきますよ?

南條:えっ、重くないですか?(笑)。でも、絶対にみんな喜びますよね。

ーーそして、ツアーファイナルが2020年4月5日、横浜アリーナにて。

八木沼:横アリも、まさか2回もワンマンで立てるとは思わなかったな。

ーー最初の横アリワンマンが2015年3月なので、5年も前になるんですね。

南條:そんなに経つんだ。

八木沼:すごく楽しみだよね。

ーー節目のタイミングでもありますし、セットリストがどうなるのかも気になるところです。

八木沼:ひとつ言えるのは、ニューアルバムのツアーなので、アルバムをじっくり聴き込んでから来てほしいなと。

ーー楽しみにしています。ちょっと気が早い話ですが、今年10周年を迎えた第2期fripSideがこの先どこを目指していくのかが気になっていまして。

八木沼:まだ僕らにとっても未知数ではありますね。僕も何歳までクリエイティブができるかわからないので。今年44歳になりましたけど、さすがに50代後半になったら今のペースで曲を作れないと思うんですよ。とすると、残された時間というのはあと10年ぐらいなんじゃないかな。本当はそろそろ、若い後陣に席を譲り渡さないとダメなんですよね。もはや老害ですよ(笑)。

南條:老害って(笑)。気持ちはずっと新人のまま、「『only my railgun』聴いてください!」の頃のままなんですけど(笑)。

八木沼:だけど、自然とそういうタイミングも来るかもしれないし。

南條:第2期が始まったとき、私は25歳だったんですけど、声優業に関しても「あれをやってみたい」とかいろいろあったし、ソロで歌ってみたいという気持ちもあったし、fripSideとしても今後どういうことがあるんだろうと、未来に向けてのビジョンがただただ拓けていて更地みたいな感じだったのが、10年経って35歳になり……特にこの数年は災害とかも多かったじゃないですか。それですごく思うのが、時間は有限なんだなってこと。ライブも一回一回、リリースするのも一回一回、自分が思っていた以上に大きなことだし大事なことだし、ありがたいことだよなと、歳がいけばいくほど実感するようになって。

八木沼:10年前に始めた頃って、南ちゃんが25歳で僕が34歳だったのかな。僕自身、一番体力があってクリエイターとしての脂が乗っている時期だったし、彼女も25歳という歌手として花開くような時期に、こうやって一緒にできたということにすごく感謝しているんですよ。で、あれだけのお客さんがいるんだから、この先もまだfripSideを応援したいという声がある限りは頑張ろうと思っています。

(取材・文=西廣智一)

■リリース情報
『infinite synthesis 5』
2019年10月30日(水)発売

<収録曲>
01.when chance strikes
02. Love with You ※TVアニメ『寄宿学校のジュリエット』オープニングテーマ
03.perpetual wishes ※中国ゲーム「ラグナロクオンライン」新エピソードEP3.5「櫻之花嫁」テーマソング
04. rain of blossoms
05. lighting of my heart ※中国ゲーム《封印者M》主題歌
06. as before
07. light at the end
08. frosty breeze
09. change your core self
10. brand new world
11. endless entropy
12. glorious wind
13. believe in your future

初回限定盤(CD+Blu-ray)
価格:¥5,830(税込)

<収録内容>
Blu-ray:
・when chance strikes MV
・when chance strikes MV making
・SPOT
・Live映像 fripSide Concert Tour 2018-2019 -infinite synthesis 4-
(2019/03/08(金)パシフィコ横浜国立大ホール)

初回限定盤<CD+DVD>
価格:¥5,500(税込)

<収録内容>
DVD
・when chance strikes MV
・Live映像 fripSide Concert Tour 2018-2019 -infinite synthesis 4-
(2019/03/08(金)パシフィコ横浜国立大ホール)

通常盤
価格:¥3,300(税込)

<特典>
アニメイト
ブロマイド、クリアファイル
※通常盤は対象外です。

ゲーマーズ
ブロマイド、缶バッジ
※特典は無くなり次第、終了とさせて頂きます。ご了承下さい。

■ライブ情報
fripSide Phase 2 : 10th Anniversary Tour 2019-2020 -infinite synthesis 5-
前売料金:8,000円(税込)※全席指定

<日程・会場・開場/開演時間>
2019年11月04日(月/祝)【兵庫】神戸国際会館 17:00/18:00
2019年11月17日(日)【香川】サンポートホール高松 17:00/18:00
2019年12月21日(土)【福岡】北九州ソレイユホール 17:00/18:00
2020年1月11日(土)【新潟】新潟県民会館 17:00/18:00
2020年1月13日(月/祝)【石川】金沢歌劇座 17:00/18:00
2020年1月24日(金)【愛知】名古屋市公会堂 17:30/18:30
2020年2月02日(日)【北海道】札幌市教育文化会館 17:00/18:00
2020年2月23日(日)【宮城】仙台サンプラザホール 17:00/18:00
2020年3月01日(日)【大阪】オリックス劇場 17:00/18:00
2020年3月14日(土)【広島】広島文化学園HBGホール 17:00/18:00
※チケット一般販売中

fripSide Phase 2:10th Anniversary Tour 2019-2020 -infinite synthesis 5- FINAL inYOKOHAMA ARENA
日程:2020年4月5日(日)
会場:横浜アリーナ
時間:開場15:30/開演17:00
チケット詳細はこちら

fripSide公式サイト

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