佐野元春がさらに追求した“ビートと言葉” 『ソウルボーイへの伝言 2019』極上のステージ

佐野元春がさらに追求した“ビートと言葉”

 もう一つの軸になっていたのは“言葉”。アルバム『COYOTE』以来、ビートジェネレーション的な手法に回帰した佐野だが、彼のリリックは作品やライブを重ねるごとに(40周年を目前にした現在においても!)研ぎ澄まされ、表現の奥行きを増している。THE COYOTE BANDが生み出すビートの快楽を味わいながら、佐野が繰り出す言葉とメロディによって様々な想像や思考を巡らせる。身体と頭を同時に揺さぶられるような体験もまた、佐野元春のライブの醍醐味だ。

 ライブ中盤では、この夏にリリースされた新曲「愛は分母」を初披露。レコーディングにはスカパラホーンズ(NARGO(Tp)、北原雅彦(Tb)、GAMO(Tenor Sax)、谷中敦(Bari-tone Sax))が参加したが、この日はTHE COYOTE BANDによるリアレンジバージョン。軽快なスカビートとポップなメロディがもたらす高揚感は、今回のツアーの大きなポイントになりそうだ。

 また、出来たばかりという未発表曲も演奏された。政治、経済を含め、シリアスな問題が山積みになっている社会の状況を見据えながらも、理想、希望を手離さないことの大切さを高らかに歌ったこの曲は、ライブ初めて披露されたにも関わらず大きな感動を生み出していた。来年のリリースに向けて制作中のニューアルバムも楽しみだ。

 アンコールでは代表曲、ヒット曲が次々と演奏され、観客の大合唱とともにフロアの熱気はさらに上がった。(そのなかには10数年ぶりにライブで披露されたという名曲も。ツアーに参加する方はぜひ楽しみにしてほしい)40年近く前の楽曲と2019年に作られた楽曲を同じステージで、完全にフラットな状態で演奏していたことも、現在の佐野の好調ぶりを証明していたと思う。

 ビート、メロディ、歌詞にビビッドに反応し、終始気持ちよく盛り上がり続ける観客の姿も(20代らしき若いオーディエンスの姿も)印象的だった。そして何より、佐野元春その人から感じられる瑞々しさ、強いエナジー、観客と真摯に向き合う姿勢に心を打たれた。最後に改めてバンドメンバーを誇らしげに紹介し、ステージを去った佐野。11月末まで続く全国ツアー『ソウルボーイへの伝言』で彼は、“2019年の佐野元春”をダイレクトに見せつけることなるはず。その先にある40周年のアニバーサリーでも、ノスタルジーに浸るのではなく、現在進行形の音楽を響かせてくれるだろう。

(写真=アライテツヤ)

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

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