タランティーノは1969年ハリウッドを“音楽”でどう描いた? 選曲に見るカルチャーの交わりと変遷

 シャロンの家で、友人のアビゲイル・フォルジャー(サマンサ・ロビンソン)がピアノで弾き語りをしていたのは、1960年代を代表するフォークグループ、The Mamas & the Papasの「Straight Shooter(ひたむきな恋)」。実際にシャロンの家にはこの曲の楽譜が残されていたという。原曲はかなりロック色が強い。

Straight Shooter

 シャロンは、The Mamas & the Papasのメンバーとも面識があった。シャロンとポランスキーがプレイボーイマンションでのパーティーに出かけた際、シャロンが「キャス!」と声をかけた赤毛の女性がメンバーのキャス・エリオット(レイチェル・レッドリーフ)だ。また、ハリウッドのトップヘアスタイリストだったセブリングが自分の顧客だったスティーブ・マックイーン(ダミアン・ルイス)が話しているときに隣にいる女性は、同じくメンバーのミシェル・フィリップス(レベッカ・リッテンハウス)である。なお、マックイーンは殺人事件のあった夜、シャロンからディナーに誘われていた。

 The Mamas & the Papasの代表曲が「夢のカリフォルニア」という邦題で知られる「California Dreamin`」。1960年代半ばに花開いたカウンターカルチャーを象徴するような曲だと言っていいだろう。1965年にリリースされ、当初はなかなか火がつかなかったが、曲によってカリフォルニアに注目が集まるにつれて売れ行きを伸ばし、66年にはビルボード4位に入る大ヒットとなった。劇中ではクリフが車で牧場から帰るとき、夕暮れのハリウッドの風景とともに流れる。

The Mamas & The Papas – California Dreamin’

 形通りの大人になることなく、自由を愛し、音楽を愛し、戦争を嫌った若者たちによる文化は、温暖なカリフォルニアで育まれた。ヒッピーと呼ばれる若者たちは、結婚に縛られない自由恋愛を提唱し、コミューンを形作った。それと同時にハリウッドの古臭い映画産業は時代遅れのものになる。リックとクリフはその象徴的な存在だ。一方、カウンターカルチャーの落とし子がカルト集団のマンソン・ファミリーだった。1969年8月、信者たちがシャロン・テートと友人のアビゲイルら5人を殺害。若者たちのカウンターカルチャーも平和を愛するフラワームーブメントも雲散霧消した。

 劇中で流れる「California Dreamin`」は、盲目の歌手、ホセ・フェリシアーノによる哀愁ただようカバーバージョン。カリフォルニアの夢の残骸におくる、鎮魂歌のように響く。多幸感あふれるおとぎ話、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の中でも特に印象に残るシーンとなった。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

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