川本真琴、℃-want you!、影山朋子、河内宙夢……アーティスト仲間と育んで生まれた作品4選

  溢れるほどのソングライティングセンスを持ち、ボーカリストとしても華やかさを併せ持つ川本真琴は、もちろん90年代から活動するキャリア十分のアーティスト。だが、もしかすると現在が一番いい状況にあると言えるかもしれない。もちろん、今に至るまで決していい時代ばかりではなかっただろう。けれど、豊田道倫(パラダイス・ガラージ)、植野隆司(テニスコーツ)、三沢洋紀(LABCRY、真夜中ミュージックほか)、澤部渡(スカート)といった曲者たちと交流、共演する機会が増えるにつれ、彼女が潜在的に持っていたチャレンジ精神、独創性にこだわる姿勢が徐々に作品の中に現れるようになる。

川本真琴『新しい友達』

 自身の名義としては9年ぶりとなる川本真琴のニューアルバム『新しい友達』は、そんな川本真琴の本質が開花した大傑作だ。植野隆司と共におもむいたニューヨークで現地のミュージシャンたちとセッションした3曲や、山本精一がsenoo rickyら京都の仲間とセッションして作った曲(「あの日に帰りたい」)、七尾旅人とmabanuaと共演した曲(「君と仲良くなるためのメロディ」)などとにかく多彩。豊田道倫や久下惠生らが参加した曲(「新しい友達Ⅱ」)では峯田和伸(銀杏BOYZ)とデュエットもしているし、マヒトゥ・ザ・ピーポーのアコースティックギターだけを相手に歌っている曲(「へんないきもの」)もある。まるでいろいろな記事が載っている雑誌をめくるようなワクワク、楽しさがあるのが何よりの魅力で、いつまでも貪欲で好奇心旺盛な川本の底なしの無邪気さが堪能できる1作だ。7インチシングル、アナログ12インチレコード、カセットテープなど様々なフォーマットで楽しめるのもいい(収録内容はそれぞれ異なる)。

川本真琴と峯田和伸/新しい友達 II

 川本真琴同様、良き理解者のサポートを得てアルバムを完成させたのは℃-want you!(シー・ウォンチュ!)。住所不定無職やMagic, Drums & Loveなどで活動する彼女の1stソロアルバム『℃-want you!』は、彼女の才能を早くから見抜いていた漫画家/イラストレーターの本秀康が、自らのレーベル=雷音レコードから彼女の7インチシングルを4枚リリースするなど時間をかけて育ててきたその成果のような1枚だ。雷音レコードからはこれまでに前野健太、大森靖子、台風クラブらのシングル盤がリリースされてきたが、杉真理、牛尾健太(おとぎ話)もゲスト参加した『℃-want you!』はAKB48や木村カエラ、SMAPなどの楽曲を手がけてきた武藤星児のプロデュースが奏功し、広くJポップのフィールドを視野に入れたような強度の高い音作りが特徴になっている。例えば、武藤の手がけた代表的な1曲「恋するフォーチュンクッキー」の場合、ホーンやストリングスを華やかに配したその70年代~80年代のニューソウル調のアレンジがリリース当時に多くの音楽通を唸らせたが、ここでもリズムや曲展開などお手本になっているのは50年代~60年代のガールポップやオールディーズ。だが、録音や演奏は意外にもタフだし音像もシャープ。結果として℃-want you!の舌足らずな愛らしいボーカルが埋もれずにしっかりと聞こえてくるし、本秀康と武藤星児のディレクションが本人作の曲をも鮮やかに引き立たせる結果となっている。

℃-want you! 1stアルバム『℃-want you!』全曲試聴動画

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