サポートミュージシャンが広げる可能性:フジロックを沸かせたヒロイン、中村佳穂と小林うてな

 もう一人、今年のフジロックの裏の顔として名前を挙げたいのが、3日間で4ステージに参加した小林うてな。初日は深夜のRED MARQUEEでKID FRESINO、2日目はFIELD OF HEAVENで蓮沼執太フィル、3日目はGREEN STAGEでnever young beachにそれぞれサポートで参加し、3日目の深夜のRED MARQUEEでは、自らメンバーのBlack Boboiで出演。本連載のテーマである「自ら生み出し、他も支える」を地で行く、まさにアイコニックな存在だ。

 もともと2013年まで鬼の右腕のメンバーとして活動していた小林は、スティールパンを軸としたサポート活動を行いつつ、2016年にSeihoがマスタリングを担当したソロ作『VATONSE』を発表した後、昨年6月に創作コミュニティBINDIVIDUALをスタートさせ、Julia ShortreedとermhoiとともにエレクトロニックユニットBlack Boboiを結成。今年発表の『Agate』は、クールにして甘美な世界観が早耳な音楽ファンからの注目を浴びた。最近ではD.A.N.やAwitchのサポート、雨のパレードのリミックス、さらにはダイアナチアキとMIDI Provocateurを結成と、そのクリエイティブはより加速していて、今年下半期の活動からも目が離せない。

Black Boboi(LIVE AT LIQUIDROOM)

 なお、蓮沼執太は6月に中村をフィーチャリングした「CHANCE」を発表し、Black Boboiのメンバーであるermhoiは、石若駿の新プロジェクトAnswer to Rememberにボーカルとして参加。同プロジェクトへの参加が発表されているKID FRESINOのバンドセットで石若と小林はバンドメンバーで、石若と中村も浅からぬ交流があったりと、本稿の主役である2人もまた、近い距離にいる。「売れっ子のサポートミュージシャンは夏フェスで引っ張りだこ」のような話自体は今に始まったことではないが、現在はシンガーもラッパーもプレイヤーもビートメイカーも関係なく、ミュージシャン同士の新たな結びつきが生まれている。今年のフジロックは、そんなことを改めて認識させる場にもなっていた。

■金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『ナタリー』『Real Sound』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』『bounce』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。

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