湯木慧が“自らの生”を経て“他者との共存”を目指した楽曲ーー「一匹狼」MVを観て

湯木慧「一匹狼」MVを観て

 最初に映されるのは、蝉や鳥の鳴き声が響く、鬱蒼とした森。さらに、黒い紐を引きずりながら歩く女性の足元が見える。次のショットは、森の中でしゃがみこんでいる女性の姿。そこにアコースティックギターの音色と〈今、立ち上がる為の“音楽”持ってさ/僕はただ唄う、僕はただ唄うの〉というフレーズが聴こえてきて、そのまま彼女は——黒い紐を引きずったままで——歩き始める。黒の衣装、黒の目隠しをしたまま、危なっかしい足取りで土の道を進むと、足元にアコギが落ちていて、彼女はそれを拾う。しかし、すぐに楽器を置いてしまった彼女は、おもむろに森の道を走り始める——。

「一匹狼」 湯木慧 MV

 湯木慧の新曲「一匹狼」のMVは、“ワンシーンワンカット”の長回しによる独特の緊張感に溢れた映像によって、楽曲のなかに込められた彼女自身の恐れ、不安、葛藤、孤独、そして、その先にあるはずの僅かな希望の光を見事に描き出している。MVのディレクションはこれまでにも湯木の映像作品を手がけてきた映像クリエイターの松本倫大が担当。7月24日に公開されて以降YouTubeのコメント欄には、「勝手に涙が滲んでくる。2回目にギター持った時の睨むような切ない目、トリハダでした」「歌もそうだけど、湯木さんのMVはほんまにすごいって思う。ずっと見てたくなる」と絶賛の声が寄せられている。

 メジャー2ndシングルの表題曲「一匹狼」。この曲にまつわるストーリーの起点は、2018年10月に発表されたアルバム『蘇生』のボーナストラックとして収録されていた「ハートレス-路地裏録音-」にあるのかもしれない。不安の真っ只中にいる人に向け、〈だけど生きて〉〈感情を絶やさないで〉と語り掛けるこの曲は、繊細な響きをたたえたアコギと鋭い表現力を含んだ歌、社会のなかで孤立し、孤独と葛藤に苛まれている心を包み込むような歌詞など、シンガーソングライターとしての彼女の在り方が端的に表れていた。「ハートレス -路地裏録音-」というタイトル通り、路上で歌う湯木の演奏シーンをメインにし、街の様々な風景を挿入したMVも話題に。このMVのラストには、生まれたばかりの子供の泣き声が入っているのだが、じつはこれ、彼女自身の産声。そして、この切なくも愛らしい泣き声は、メジャー1stシングル『誕生〜バースデイ〜』の1曲目「98/06/05 11:40」につながっている。

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