菅田将暉は“衒いなき愛”とともにアーティストとして成長する アルバム『LOVE』を聞いて

 男女問わず、役者が歌手デビューすることは、今も昔も特に珍しいことではない。歌の上手い下手はあるにせよ、日ごろから“声の表現”というものを意識しているであろう彼/彼女たちが、シンガーとして思いのほか非凡な才能を持っている場合も多々あることだろう。けれども、菅田将暉に関しては、ソロでデビューしたときから、通常のそれとは少し異なる印象を持っていた。端的に言うと、「ああ、この人は、ロックが歌える人なんだ」という新鮮な驚きが、そこにはあったのだ。無論、ロックを歌うこと自体は、誰にだって可能だ。しかし、大音響のバンドサウンドの中で、埋もれるどころかそのサウンドを牽引するような個性の立った歌を響かせることは、なかなかできることではない。朗々と美声を響かせるのではなく、ときにザラついた感覚を持ちつつも、そのエモーションがリスナーの胸に真っ直ぐに突き刺さってくるようなボーカル。敢えて名前を挙げるならば、BUMP OF CHIKENの藤原基央やRADWIMPSの野田洋次郎の“歌”に感じるようなそれを、菅田将暉の「見たこともない景色」、「さよらなエレジー」といった楽曲に感じ取ったのだ。

菅田将暉『LOVE』(通常盤)

 しかし、シンガー菅田将暉の魅力は、それだけではなかった。筆者が再び刮目したのは、今年5月に配信シングルとしてリリースされた……というよりも、松坂桃李主演のドラマ『パーフェクトワールド』の主題歌として、米津玄師が作詞作曲プロデュースを担当した菅田将暉の楽曲「まちがいさがし」が流れたときだった。米津玄師らしい緻密で切実な詞世界を持ちつつも、楽曲的にはピアノの弾き語りを基調としたこのシンプルなバラード曲を、菅田将暉は見事に歌い上げていたのだ。自身がメインキャストとして出演しているわけでもないドラマ『パーフェクトワールド』の主題歌として、何の違和感もないどころか、その世界を締め括るに相応しい包容力を湛えた伸びやかなボーカル。そう、もはや菅田将暉は、自身の俳優業とリンクした形ではなく、ひとりのシンガーとして捉えるべき存在なのかもしれない。かくして、そんな「まちがいさがし」をリード曲とした、菅田将暉通算2枚目となるオリジナルアルバム『LOVE』が、前アルバムから約1年3カ月という実に早いペースで完成した。その中身は、果たしてどんなものになっているのだろうか。

菅田将暉 『まちがいさがし』

 石田ひゅーい、秋田ひろむ(amazarashi)、柴田隆浩(忘れらんねえよ)など、前作にも楽曲を提供していた、菅田と旧知のミュージャンたちをはじめ、志磨遼平(ドレスコーズ)やあいみょんなど、さらに多彩なミュージシャンが、そのクレジットに名を連ねている本作。冒頭に書いたように、彼の非凡な持ち味のひとつである“ロックシンガーとしての魅力”は、本作においてもいかんなく発揮されている。具体的に言うならば、秋田ひろむ作詞作曲の「ロングホープ・フィリア」、柴田隆浩作詞作曲の「7.1oz」、菅田自身の作詞作曲によるパンクチューン「ドラス」、さらには一緒にツアーを回ったバンドメンバーたちと生み出した、ライブ感溢れる「TONE BENDER LOVE」といった楽曲だろうか。志磨遼平作詞作曲のロックバラード「りびんぐでっど」で響かせる、独特な“揺らぎ”のあるボーカルも、ある意味非常にロックシンガー的と言えるかもしれない。

菅田将暉 『ロングホープ・フィリア』

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