テイラー・スウィフト「You Need to Calm Down」、ポップなMVに込められた本当の狙い
テイラー&ケイティの衣装は“世の中に対する見解”を示している?
それでも、私はテイラーのファンベースを考えると、意義のある動きであり、曲だと思う。LGBTQの有力支援団体GLAADを歌詞に織り込むだけでなく、大金を寄付し、それにならって彼女のファンが13ドルを寄付する動きも広まっている。学級委員の様な「みんな仲良くしましょう」というコンセプトも彼女らしいし(そのわりに宿敵カニエ・ウェストの妻、キム・カーダシアンとのケンカを象徴するヘビはしつこく出しているが)、それに沿ってここ数年、仲違いしていたケイティ・ペリーと仲直りするというオチも用意している。
さて、ここからは筆者の独自理論を展開したい。ケイティがMet Galaで着たハンバーガーの衣装に合わせ、テイラーがフレンチフライになっているのは「仲よし」を象徴する以上に、「アメリカ的なもの」に対する彼女なりの姿勢ではないか? その前に出てくる人気番組『クィア・アイ』の出演者たちとの「不思議の国のアリス」を彷彿とさせるティーパーティーは、共和党の根回し運動、ティーパーティー運動の当て付けにも見える。保守的な層に人気があるカントリーをベースにしたポップを奏でながら民主党支持を表明し、トランプ嫌いを公言したのはとても勇気がいること。30歳を目前にしたテイラー・スウィフトはアメリカのアーティストらしく、自分の「世の中に対する見解」を示しているのだ。
極めつけは、歴史的にゲイ解放運動の幕開けとされる、50年前にストーンウォールの反乱がおきた酒場をライアン・レイノルズが画家に扮して描くクライマックス。このレイノルズが絵を描いている構図が、アメリカの画家、ノーマン・ロックウェルの自画像を描く絵とそっくりなのだ(参照:WIKI ART)。ロックウェルは市井の人々を描いた画家として知られ、早い段階で公民権運動を支持する絵を描いた。わかりやすく、愛らしい画風はテイラー・スウィフトの音楽性と一致する。これはアメリカのメディアも指摘していないので、筆者の深読みかもしれないが、パステルカラーのビデオは見かけよりずっと丁寧に準備されていることは間違いない。そういった点にも注目しながら、ぜひこのビデオを見直してほしい。
(文=池城美菜子)