三浦大知のボーカル表現を徹底分析 新作『片隅 / Corner』に見る、発声の繊細さとグルーヴの鋭さ
三浦大知のシングル『片隅 / Corner』が6月12日にリリースされた。三浦大知の躍進を後押しするかのような、楽曲からサウンド、パフォーマンスまで全方位的に磨き上げられた2曲だ。
「片隅」は4月に先行配信されていた一曲。ボーカルをいかしたピアノバラードのようでいて、硬質なビートやシンセが全体を下支えしている。2つ目のサビ前で挿入されるシンプルながらきらびやかなシンセのフレーズや、その直後から挿入されるストリングスなど、ドラマティックな演出が効いた一曲。しかし、こうした壮大な展開に埋もれることなく、やわらかく繊細なボーカルを披露する三浦のさりげないスキルはさすがだ。「Corner」は一転、ハウシーな4つ打ち。バラードだけでなくこうしたダンサブルなサウンドでも三浦のボーカルスキルは存分に発揮されている。とりわけ、的確に把握されたグルーヴの表現、抑制の効いたメロディを聴きごたえたっぷりにプレゼンテーションする声の使い方は見事。「歌って踊る」エンターテイナーの本領はここにある、とさえ言いたくなる。挿入される不規則なリズムにも対応する反射神経にも注目したい。
ここで改めて、三浦大知のボーカルのなにが凄いのか考えてみたい。とりわけ、対象的な2曲を収めた今回のシングルを通して。
個人的には、三浦のボーカルの魅力は、なによりも、やわらかさや柔軟さにあると思う。声量、ピッチの正確さは言うまでもない。「声を張る」ような発声はあまりせず、アタック(声の立ち上がり)もトーンもやわらかい。存在感があるにも関わらず、押しは強くないというバランス感がある。また、ウィスパー気味の歌唱からクライマックスまでをスムーズに行き来し、自然に感情を高揚させるというダイナミクスのコントロールが見事だ。
とはいえ、三浦はキャリアの当初からこうした特徴を持っていたわけではない。「The Answer」(2010年)の時期に新たにボイストレーニングを受け直し、発声を根本的に変えたのが大きな転機だ。たしかにそれ以前のボーカルは特にロングトーンの部分で声を張っている感触があり、現在のような柔らかさはそこまで前面に出ていない。わかりやすさのためにあえて極端な例を持ち出すが、特にソロデビュー当時の楽曲を聴くとその違いは顕著だ。「Keep It Goin' On」(2005年)のサビや、アウトロのロングトーンはパワフルだが、現在のしなやかなボーカルと比べるとテンションが張っているように感じられる。