Saucy Dogが提示した“歌モノバンドの王道” 一つの目標だった日比谷野音でのライブを振り返る
「俺ららしさをずっと残したまま、でもちょっとずつ変わりながら、みんなの毎日を彩れる曲を書いていきたいな」(石原慎也)。
Saucy Dogが、4月30日に東京・日比谷野外大音楽堂にて、ワンマンライブ『YAON de WAOOON in TOKYO』を開催した。Saucy Dogは、石原慎也(Vo/Gt)、秋澤和貴(Ba)、せとゆいか(Dr/Cho)の3人からなるロックバンド。石原の実体験を基にした情緒溢れる歌詞と癖になる切ない歌声、キャッチーなメロディラインと絶妙なバンドアンサンブルからなる聴き心地の良いサウンドは、一瞬で体内に染み込んでいく。日常の1ページを切り取ったようなノスタルジックな楽曲たちは、観る者の脳裏にそれぞれの情景をリアルに描かせるのだ。私たちが心の奥底にしまいこんだ想いを、言葉と音で優しく包み込んで掬い上げてくれるような、そんな温かいバンドである。
Saucy Dog再始動すぐの1st EP『あしあと』(2016年8月リリース)から、最新作となる2ndミニアルバム『サラダデイズ』(2018年5月リリース)、4月5日配信リリースされた「ゴーストバスター」に加え、タイトルが未発表の新曲2曲を含む全18曲が演奏されたこの日は、彼らが今に至るまで歩んできた道をすべて辿るようなセットリストだった。日比谷野外大音楽堂という大きな会場には、程よい緊張感と高揚感が漂う。天気はあいにくの雨だったが、ライブ冒頭でせとが「今日のサウシーの日比谷野音は、雨が降ってたからこそめっちゃよかったって、そんな風に思ってもらえるようなライブをしに来ました。慎ちゃんの声とサウシーの曲は、雨、めちゃくちゃ似合うと思う」と話していたように、“雨だからこそ”Saucy Dogが生み出す楽曲の世界観がより深まり、雨音とあいまって彼らの紡ぎだす音がダイレクトに心に響くライブだった。
そのステージで、特筆すべきは、“歌モノバンドの王道とは何か”が提示されていたことだろう。たとえば、中盤に披露された「いつか」。石原が「『いつか』だけに助けられたくない」(引用:Saucy Dog「サラダデイズ」インタビュー/音楽ナタリー)と語るほどの代表曲だ。石原の地面を力一杯に蹴るカウントから一斉にはじまる、郷愁漂うゆったりとしたイントロ。その後Aメロでは歌をじっくり聴かせるかのように、ボーカルの声とコード弾きのベースのみが響き渡る。Bメロではシンプルで控えめなドラムが入り、伸びやかなベースラインへと移り変わりながら、サビに向かって盛り上がっていくのだが、1曲通してあくまで楽曲の主体は歌ということを感じさせる。もちろんそれは、石原の声量と抜けの良さゆえにとも言えるのだが、それだけではない。せとの安定したドラムがしっかりと基盤を築きながら、そこに秋澤の計算されつつも自由に遊ぶようなベースラインがのる。この二人のリズム隊が音圧をしっかりと保ちながら、石原の声を活かしているのだ。