欅坂46、3周年ライブの背景にあった対照的なテーマ グループの基調を提示した日本武道館公演
さて、そんな今回のアニバーサリーライブだが、大阪会場とはセットリストも演出も一変させて挑んだ日本武道館での公演は、前述したとおり”3年間で築き上げた世界観を見せつける”ものであった。
ひとつの作品のように練り上げられた楽曲の構成、演出。3つの砂時計を表現したという舞台美術や、暗号のようなフォントでできた映像演出などステージのあらゆる点まで凝っている。また、既存の楽曲も振り付けが進化し、より見応えのあるものとなっていた。例えば「避雷針」。2期生も加わったことで人数が増し、舞台上での”圧”がある。
大量のスモークが漂うステージ上にメンバーが横たわる「月曜日の朝、スカートを切られた」の異様な景色や、本来感動的なものとして映るはずの「二人セゾン」のラスト”欅タワー”が灰色の衣装とモノクロの背景によって退廃的なイメージへと昇華されていたことなど、本公演ならではの見せ方がなされていた。
ステンドグラス風の映像を縦型スクリーンに映し出した「キミガイナイ」での荘厳な演出は、筆者がこれまで見てきたこのグループのライブ演出の中でも最も美しい瞬間のひとつであった。
円状に配置された椅子に座るメンバーたちとその中心で数名が踊る「Student Dance」では、スマートホンで撮影する平手友梨奈や、炎の特殊効果など、ヒリヒリとした空気感がステージ上から伝わる。
そして、何と言っても本公演の目玉はちょうど折り返し地点で披露されたボディーシルエットパフォーマンスだ。2017年の全国ツアーの序盤で見られた紗幕を用いた演出では、「エキセントリック」の歌詞を浮かび上がらせたり、メンバー自身が土台となってその上を平手が登っていく組体操のような光景を見せていた。
劇団かかし座の協力によって実現した今回のパフォーマンスは、影絵の演技それ自体をひとつの作品として見せ、平手演じる主人公が”出会い”と”別れ”を経験していく姿をメンバーたちがしなやかに、かつ、繊細に紡いでいく。そしてこれが今回のライブ全体のテーマをほんのりと浮かび上がらせてくれるのだ。
「I’m out」以降、「君をもう探さない」などを経由して、主人公が徐々に集団から離れていくような”喪失感”が増していくセットリストを見せる中、この影絵のパフォーマンスがぴたりとピースのようにハマり、前後の楽曲が一本のストーリーを描いているかのように結び付いて、別れや苦しみ、人の生き死にといったテーマにライブが接近していく。
終盤に差し掛かるとギアチェンジするようにして激しいダンスが繰り広げられ「語るなら未来を…」へと繋ぐ。〈もう 失った人生なんて語るな〉のフレーズが会場に響き渡る。息つく暇もなく次の曲がかかると、まるで何かを決意したかのように「風に吹かれても」「アンビバレント」を踊り切った。とどめを刺すように「黒い羊」が披露されると会場からどよめきに似た歓声が湧く。メンバーの表情から”この曲のために”といった覇気のようなものが伝わる。終演後には自然と温かな拍手が送られた。
ソロやユニット曲をなくしたことで、枝葉のように分かれたスピンオフ的な世界ではなく、表題曲や深みを持った準表題級の楽曲の連なりによって一本の太い幹のような公演に仕上がったこと。MCを極力排したことで、楽曲の組み合わせやステージ上の動きの連続で積み立てられたライブ展開など、特筆すべき点は多い。異端と言われる彼女たちにとっても大きな挑戦であっただろう。
中盤でのMCで、3年間の活動を振り返った土生瑞穂が「タピオカ食べたから、元気いっぱいです。3年間で一番食べた物なので……」とお得意の支離滅裂な言動で笑いを誘うと、すかさずキャプテンの菅井友香が「タピオカのように噛み応えのあるグループになりたいですね」と拾いファンを湧かせていたが、そんな微笑ましいやりとりが、むしろライブ全体の中でいびつな印象を残すほど、細部に渡り完成されていた公演であった。
4年目を迎えた欅坂46。デビュー時からは予想もできない場面を何度も見せてくれた。今後もファンの予想を超える展開を期待したい。
■荻原 梓
88年生まれ。都内でCDを売りながら『クイック・ジャパン』などに記事を寄稿。
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(写真=上山陽介)