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BTSのアルバムに込められた深遠なる心理ーー『ユング 心の地図』翻訳者 入江良平氏が分析

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 2曲目のアルバムリード曲「Boy with Luv」のミュージックビデオ冒頭にも、「Persona」というキーワードが登場する。BTSメンバーが劇場の前で踊る、その劇場の名前が「Persona」なのだ。

BTS (방탄소년단) ‘작은 것들을 위한 시 (Boy With Luv) feat. Halsey’ Official MV

「アルバムそのものを劇場あるいはドラマに例えたという風に思えます。チケット売り場には“Open 10:00  Closed 23:00”と書かれています。チケット売りに扮したホールジーが時計を見ると、針は23時を指しています。そこで彼女は売り場のシャッターをおろし、画面は真っ暗に。仕事の時間、ペルソナ(社会的なマスク)に従って生きる時間は終わり、自分の時間が始まりました。そしてBTSにとってペルソナを外し、自分自身になる時が始まります。彼らはペルソナ劇場の周辺で歌い、踊るのです」

 明るかった画面は徐々に夕焼け空に、そして夜に転じていく。

「客観的あるいは社会的な昼間の価値基準が後退し、主観的で私的な、情緒的な価値が前面に出てきます。『社会的な成功によって自分のペルソナが巨大になりすぎた、逃してほしいと願うこともある』と。でも、“君”と“僕”という個人的な関係こそが重要なのだ気づいていくのです」

 そして3分30秒頃、「君がくれたイカロスの翼で太陽ではなく君のもとへ」という趣旨の歌詞と共にステージが広がり、群衆が集まってきて壮観なダンスシーンが始まる。

「ここで問題なのが、歌詞に登場する“君”が誰かということです。ミュージックビデオを見ると、ファン(ARMY)を指していると考えるのが普通でしょう。ただ、私の印象は、ファンとパーソナルな関係の恋人、どちらにも取れるような曖昧な作りになっているというものです。おそらく意図的にでしょう。BTSとARMYの関係が、極めて主観的で個人的な、親密な関係を模している、あるいはそのようにデザインされているのかもしれません」

 「Boy With Luv」 は、「世の中の栄光を経験した。素晴らしいことばかりだった。しかしそれでも最後に帰って行くのは君のところだ」というラブソングのモチーフを踏襲している。だが、入江氏は、「アルバム『MAP OF THE SOUL: PERSONA』の独自なところは、これが最終到達点ではないということです」と説く。

「この次に『すべての人はそれぞれ一つの星だ』というビジョンが登場します(「Mikrokosmos」)。資産、外見の美、社会的地位、学歴といったこの世の事柄に裏付けられた相対的な価値ではなく、人間であることのみに基づく絶対的な価値の予感が垣間見られます」

 入江氏の分析によると、アルバムを貫く自分探しは、4曲目の「Make It Right」からどんどん階段を下りるように内界の深みへと展開していく。愛が欠けている寂しさを歌う「HOME」、そして毎回ゲームオーバーになって前に進まないと嘆く「Jamais Vu」。

「ユング心理学の考える『本当の自分自身』は、この世の外の何か、『Mikrokosmos』の“70億の星”が暗示するような何かと結びついています。それがユングの言う『自己』です。だから、この世でどれほど成功したとしても、どれほど偉大なペルソナを達成したとしても、あるいは、私的で親密な人間とのつながりを持ったとしても、それだけで『本当の自分自身』に到達することはできません」

 アルバムの最後を飾るのは、ギリシア神話に登場する豊穣とワイン、酩酊の神の名を冠した「Dionysus」だ。この曲を入江氏は、「原始の混沌の中に帰っていった状態」と見る。

「このアルバムの流れは、変容の過程として一般的なもので、現在あるものが解体され、原初の混沌の中に沈み込んでゆきます。そしてそこから本当に新しいものが生まれてくるのです」

 つまり、『MAP OF THE SOUL: PERSONA』というアルバムは、混沌の中に沈み込んで、ここから先は混沌しかないというところにたどり着く。だから、「きっとこのシリーズには続きがあるのではないか」と入江氏は予見する。

「続編のキーワードは、幻想の女性をモチーフにした“アニマ”でしょうか。希望的観測かもしれませんし、当たるとは全然思っていませんが(笑)」

 実は、『ユング 心の地図』の著者マレイ・スタイン氏も、「Speaking of Jung」のインタビューで『MAP OF THE SOUL: PERSONA』の意味をひも解いているが、「Dionysus」を「ペルソナの呪縛から解放された祝いの歌」と結論づけるなど、入江氏とは見解が異なる部分もあるのが興味深い。

 記者会見(4月17日・ソウル)でジョングクは、『ユング 心の地図』が世界中で売れていることについてこう答えている。

BTS Global Press Conference ‘MAP OF THE SOUL : PERSONA’

「ARMYのみなさんは『BTSのおかげで勉強するようになった』と言っています。僕たちの新しいアルバムやコンテンツについて楽しみながら推測したり解釈したりする姿を見ると、もっと楽しませてあげたいなと思います」

 『MAP OF THE SOUL: PERSONA』の曲を聴きながら、『ユング 心の地図』を読めば、歌詞やミュージックビデオにちりばめられたキーワードの意味が見えてくるはず。あなたには、どんな心の地図が浮かび上がるだろうか。

■桑畑優香
ライター・翻訳家。
94年『101回目のプロポーズ』の韓国リメイク版を見て、似て非なる隣国に興味を持ち、韓国へ。延世大学語学堂・ソウル大学政治学科で学ぶ。「ニュースステーション」ディレクターを経てフリーに。ドラマ・映画のレビューを中心に「韓国TVドラマガイド」「韓国語学習ジャーナルhana」「現代ビジネス」「AERA」などに寄稿。「韓流旋風」に映画コラム『ヨクシ! 韓国シネマ』を連載中。共著に『韓国テレビドラマコレクション』(キネマ旬報社)ほか。

      

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