『YON FES 2019』特別対談
04 Limited Sazabys・GEN×SiM・MAHが語る、アーティスト視点で考えるフェス運営の醍醐味
全国を廻って得たものを神奈川に還元できるのが理想(MAH)
ーーSiMが『DEAD POP FESTiVAL』を立ち上げたときも、明確なテーマがあったんですか?
MAH:2008年にライブハウスで『DEAD POP』を始めたときは、“同世代”と“ジャンルの壁を壊す”ということを意識してましたね。当時のSiMは“地方に行って30人呼べるかどうか”くらいのバンドで。coldrain、HEY-SMITHも似たような状況だったから、それを打破するために一緒にイベントをやろうと。あと、当時は“メロディック”“ミクスチャー”みたいなジャンルの縦割りがハッキリしてたんです。HEY-SMITHはメロディック、SiMはミクスチャーみたいに括られていて、対バンするチャンスもあまりなくて。
その状況を変えるためにどうしたらいいか考えて、僕らが『DEAD POP』、HEY-SMITHが『HAZIKETEMAZARE』、coldrainが『BLARE DOWN BARRIERS』を始めたんですよね。『DEAD POP』を4、5回続けてるなかで、少しずつ階段を上がって、中堅くらいの世代になって。野外のフェスは「やれたらいいな」という夢のまた夢という感じだったんだけど、やっぱり10-FEET主催の『京都大作戦』の影響も大きいですね。2008年に初めて出させてもらったんですけど、バンド主催フェスならではの雰囲気があって、それがすごくいいなと思ったので。
GEN:出演するバンドがすべて10-FEETとつながってますからね。
MAH:そうそう。自分たちもSiMならではのフェスをやりたいと思って。野外ではじめたときはジャンルの縦割りもなくなってたし、そのうえで「SiMならではのメンツ」ということを考えて……やっぱりそこだよね。
GEN:そうですね。もちろん『YON FES』ならではのラインナップは大事なので。
MAH:難しいけどね。さっきGENが「他のフェスと同じようなメンツになってしまう」という話をしてたけど、それは結局、倒す敵がいなくなったということだと思うんですよ。自分たちもそうで、最初はメインストリームに対抗するような感じだったのに、いつの間に自分たちがメインみたいになってきて。「どうしよう?」という時期に差し掛かってる気がしますね。
GEN:SiMと同じように、自分たちも“ジャンルの壁を壊す”みたいなテーマも意識していて。ギターロックだったり、いわゆるロキノン系と呼ばれるバンドとも一緒にやるし、メロコアシーンのバンドにも出てもらって、両方の橋渡しが出来たらいいなという部分もありました。たとえばKEYTALKやTHE ORAL CIGARETTESと同じフェスにSHANKが出るって、ちょっと違和感があったと思うんです。それも回を重ねるごとに普通になってきたというか。
ーー名古屋のメロコアシーンを盛り上げたいという気持ちもあった?
GEN:そうですね。僕らが育ってきたシーンだし、いい影響を与えられたらいいなと。お客さん目線でアガれるバンドばっかりを集めたとしても、それがライブハウスシーンの盛り上がりにつながらないと、自分たちがフェスをやる意味はないと思うんです。ライブハウス、スタジオ、レコード屋もそうですけど、『YON FES』があることで、何かしらいい影響がないと……。最近、バンドの数が減ってるような気もするんですよ。MAHさんが言ってた「ジャンルの縦割りがなくなった」というのは、バンド人口が減ってることも関係してるんじゃないかなと。
MAH:確かに10年くらい前はバンドの数が多かったよね。
GEN:お世話になってたライブハウスが潰れたりもしてますからね。そういう状況を少しでも変えて、新しいバンドがどんどん出て来るようにならないと、フェスも続かないというか。
MAH:うん。僕らもそうで、地元の神奈川を盛り上げたいという気持ちはすごくあって。僕らは神奈川出身のバンドなのに、ツアーのファイナルは東京でやることが多い。いろんなことを考えると東京でやったほうがいいに決まってるんだけど、気が付けば、東京のバンドの動き方みたいになってしまっていて。全国を廻って得たものを神奈川に還元できるのが理想だし、そのためにフェスも立ち上げたんですよね。もともと神奈川にはデッカいフェスがなかったので。あと、ライブハウスの人と話してると、やっぱりみんな「バンドがいない」って言うんですよ。そのために何か出来ることがないかなと考えて、『DEAD POP』で毎年オーディションをやってるんです。審査して、対バンしたうえで、フェスに出られるバンドを決めるっていう。「どうしたらフェスに出られるかわからない」という若いバンドの気持ちもわかりますからね。
ーー『DEAD POP』に出演することがモチベーションになるだろうし。
MAH:そうなるといいなと思ってます。会場にスタジオブース(「STUDIO D×P×F」)を設置して、自分たちの機材を自由に触って、音を出せるようにしてるのも、楽器やバンドを身近に感じてほしいからで。たまに出演者が音を出して、その場でコピーバンドが出来ることもあったり。
GEN:アレ、いいですよね。『YON FES』でもやろうとしたんですけど、たぶん音を出すのは難しくて。機材だけでも置きたいんですけどね。『DEAD POP』に関して言えば、バックヤードの雰囲気もすごく良くて、ライブハウスでダべってるような空気なんですよ。“ライブハウスから始まって、キャパ的に成り立たないから野外フェスになった”という感じがあるし、神奈川のライブハウスの人たちに会えるのも嬉しくて。
MAH:みんな「いい雰囲気」って言ってくれるんだけど、狙ってるわけじゃないんだよね。これはディスってるわけじゃないけど、イベンター主催のフェスとかで、さも「ここで交流してください」みたいな場所があったりするでしょ? スキがあれば、オフィシャルカメラマンが撮りますよ、みたいな。
GEN:ありますね(笑)。
MAH:そうなると、こっちも構えちゃうじゃん。『DEAD POP』のバックヤードはそうじゃなくて、ただメシを食う場所があるだけなんだよね。呼んでるメンツがメンツだから、勝手にいい雰囲気にしてくれるというか。スタジオブースで出演者が音を出してくれるのも、想定外だったんですよ。最初はあくまでもお客さんに楽器を触ってもらうことが目的だったんだけど、それプラス、バンドマンが自由に楽しんでくれて。『DEAD POP』の独特の空気はみんなが作ってくれるものだし、恵まれてるなって思いますね。
GEN:バックヤードのことは僕もめちゃくちゃ考えますね。たくさんフェスに出させてもらって、ケータリングとかもいろいろ経験してるし、「豪華にすればいいってもんでもないな」とか。
MAH:わかる。「美味いもの食わせればいいと思ってるな?」とか(笑)。
GEN:フェスのカラーによっても違いますからね。
MAH:そうだね。出演してくれるバンドも全国のフェスに出まくってるから、下手なことはできないというか。そういえば去年、GENに「お湯がない」って言われたんですよ。お茶を飲もうとしてたんだっけ?
GEN:紅茶ですね。ライブ前にショウガとハチミチを入れた紅茶を飲むんですけど、『DEAD POP』のバックヤードにお湯がなくて。暑い時期のフェスだから、お湯は盲点なんですけど、すぐ主催者にクレーム入れましたよ(笑)。
MAH:すぐ用意しました(笑)。ライブ前に欲しいものとかって、アーティストじゃないとわからないですからね。他のフェスに出させてもらたっときも、「ここはいいな」と思うことがあれば、自分たちのフェスに取り入れたり。
GEN:逆にイヤなことがあったときも、「何でこうなるんだろう?」と考えるようになりましたね。自分たちのフェスで、出演してくれたバンドが嬉しそうだと、こっちもめちゃくちゃ嬉しいんですよ。もてなしたいという気持ちもあるし。