メル、3年ぶりアルバム『Funeral』から醸し出される90年代ロック愛とその真意

メル『Funeral』インタビュー

 ボカロPとして活躍するメルが、アルバムとしては3年ぶりとなる『Funeral』を3月27日に発売した。ポップでありながらダークネスな雰囲気を漂わせる曲は、90年代ロックからの影響も大きく受けているが、何よりもサウンド面だけでなく歌詞がこれまで以上に深みを増しており、大きな進化を伺わせる内容となっている。今回、自身のルーツや今後のボカロシーンに関しての感想も含めて話を聞いた。(編集部)

小説や映画を観た時に受ける影響って大きい

――素晴らしいアルバムが完成しました。世界観がお洒落で可愛いと感じる人もいるだろうし、洋楽センスを感じられるシューゲイザーやインディーロックというキーワードから作品性への深読みもできます。2019年のボカロ文化をアップデートする、いろんな角度から楽しめるアルバム作品になったと思います。音楽的には、ドリームポップ感あるバンドサウンドだと思いますが、ボカロPとして活躍するメルさんは、もともとバンドをやってらっしゃったんですか?

メル:高校生の頃からバンドをはじめて、音楽をやってきました。バンドをやっていたのは黒歴史なんですけどね(苦笑)。もともと中2の頃、BUMP OF CHICKENで音楽が好きになって。最初は邦楽ばっかり聴いてたんですけど、好きなバンドのインタビューでルーツを探ったりするのが好きになって。その結果、洋楽を聴くようになりました。洋楽を聴くきっかけになったのはたぶんART-SCHOOLなどですね。ライブもよく行きました。あと、SUPERCARとか。

――リアルタイム世代では無いですよね?

メル:そうですね。解散してかなり後になってから知りました。具体的なきっかけは覚えてないんですけどね。当時、中学〜高校のときにTSUTAYAでCDを借りまくっていて。毎週のように20枚とか借りて聴きまくっていました。

――そこからだんだん洋楽の深みにハマっていったと?

メル:そうですね。

――昨今、音楽キーワードとしてオルタナやシューゲイザーが再熱していますが、その辺の音楽シーンへ興味は?

メル:いま流行ってる音楽も好きですよ。オルタナ感あるヒップホップとか海外で人気ですし、最近聴くようになりました。ちょうど一昨日、来日公演に行ったんですけどClairoっていう海外の20歳の女の子。宅録のヒップホップのアーティストとか好きで、めっちゃ聴いてます。

――アルバム『Funeral』には、様々な音楽からの影響が感じられるんですけど、同世代のボカロPというとどの辺になるんですか?

メル:キャリアでいうと、2014年にボーカロイドでの投稿をはじめました。最初に仲良くなったのがキタニタツヤ(※“こんにちは谷田さん”名義でボカロPとして活躍)でしたね。

――ちょうどボカロシーン的には、どんなタイミングだったんですか?

メル:それまで自分自身、ボカロをあまり聴いていませんでした。盛り上がり的には、確かちょっと落ち着いてきた感じですね。自分が出てきて1年後くらいに、またボーンってムーブメントに火がついていく感じがあったり。

――n-bunaさん(※ヨルシカの中心メンバー)とか?

メル:逆に僕はn-bunaの曲を聴いてボカロのシーンっていいなって思ったんですよ。ボカロPをはじめたきっかけにもなりました。

――あの方もギター好きですもんね。

メル:そうですね。ギターオタクですね(笑)。

――ボーカロイドシーンでも自分がやりたい表現ができると思ったのですね。

メル:でも、最初はボカロの曲として割り切って自分を出していなかった部分があって。最近は全開で表現してますけどね。

――何故そういう風に思ったんですか?

メル:無駄に「みんなここはこうした方が好きだろうな?」とか考えすぎて作るより、自分を100%出しちゃったものの方が受け入れてもらえる場合も結構あるんだなって気付いて。

――今回、アルバムは3年ぶりとなります。でも、新曲はけっこう定期的に出されてましたよね?

メル:そうですね。曲はちょこちょこ出していて。

――こうして、アルバムとしてまとめていこうと思ったのは、どんなきっかけで?

メル:いつだっけな。1年前くらいから考えてはいたんですよ。でも、なかなか出せなくて。ちゃんと出そうと思ったのは2018年の夏くらいかな。そこからまた、なんだかんだ遅くなっちゃったんですけど。

――アルバムタイトル『Funeral』は、どんな意図で名付けられたのですか?

メル:『Funeral』は「葬式」みたいな意味です。自分を“1回死んで”じゃないですけど、生まれ変わりたいみたいな気持ちが強くてつけたタイトルですね。なんていうか単純に映画が好きで、海外のそういうシーンが好きで美しさを感じたことがきっかけかもしれません。

――ジャケットのアートワークにも結び付いてくるのですね。

メル:アートワークは100%(イラストレーターに)任せていて。曲を渡して、だいたいの今言ったようなイメージだけを伝えて書きたいように書いてほしくて。

――Twitterで少し前に“退廃的なシティポップ感”っていうツイートをされていて。その言い回しは面白いと思いました。

メル:Twitterを出されると恥ずかしいな(苦笑)。シティポップと言われるような音楽ってけっこう出てきてると思うんですけど、その中でも個人的にはちょっと棘があるというか、ロックを感じる曲が好きで。名前をあげると最近だとTempalayとか。ああいう感じが趣味なんです。日本でももっと増えてもいいのになって思っていて。シティポップって言葉あんまり好きじゃないし、彼らもそこに分類したくないんですけどね(笑)。


――その辺のセンスが、今回アルバム『Funeral』でも表現されていると思います。今作を生み出したキーワード、他にも思い浮かぶ言葉はありましたか?

メル:音楽性でいうとベッドルーム感は意識して作りました。

――ドリームポップ的な?

メル:そうですね。ドリームポップ、ローファイみたいな。

――アルバムを聴いてると流麗なメロディがとても素晴らしくって。

メル:メロディだけは自分でも自信があります。そこは全面に出していこうってずっと思っていて。だから、サウンドは逆に好き勝手やっていいかなって。メロディがポップだったら大丈夫かなと。

――ちなみに曲はよくてもボーカロイドの歌声が苦手な人もいるじゃないですか? でも、そんな人でも、メルさんのボカロの使い方は大丈夫だっていう音楽ファンがけっこう多くて。

メル:少しは意識してますね。いろんな層に聴いてもらえたら嬉しいんで。

――なかでも新曲「あまい」がめちゃくちゃ良くて。これこそ優しいメロディに癒される作品性が魅力で。どのようにして生まれたのでしょうか?

あまい / 初音ミク・flower

メル:割ととさっきから単語を出してるんですけど、ローファイをやろうと思って作りました。「ローファイってなんなんだろう?」って感じですけど、自分のなかではイメージが感覚なんですけど明確で。

――「ゴールデンジャーニー」もイントロから刹那ポップで泣けて。青春を感じますし、歌詞におけるストーリーテーラーとして言葉の選びかたが絶妙ですよね。

ゴールデンジャーニー/初音ミク・flower

メル:ありがとうございます。この曲こそ90年代をやりたかった感じですね。インディーポップ、ティーン感ある10代のアメリカっていう世界観を打ち出してみたくって。わかりやすくいうとペインズ(The Pains of Being Pure at Heart)とか。めっちゃ好きなんですよ。

――メルさんが生み出すサウンドセンスって、洋楽好きの音楽ファンにも伝わりますよね。ボカロ界隈では異色だったりしたんですか?

メル:確かに音楽の趣味が会う人は少なかったんですよ。いても、こんなに全面に出してる人はなかなかいないですよね。

――今回、アルバムラストに収録した「キッズ」は、ご自身で歌唱されていました。

メル:単純に歌いたいから歌ったって感じなんですよ。

――歌ってみてどうでしたか?

メル:もっと歌いたくなりましたねぇ(苦笑)。それは、けっこういろいろ考えていて、このアルバムのコンセプトはそういう意味だったりもします。

――もともと、ライブもやられてたりするじゃないですか?

メル:それこそ、ライブでは普通のバンドみたいな感じだったりしますから。やる曲はボカロの曲なんですけどね。自分で歌って。

――シンガーソングライターですよね。5月には吉祥寺WARPでライブも決まっていて。

メル:まだ、バンドメンバーが決まってないんですよ(苦笑)。いま探していて。

――とても楽しみです。ちなみに「ひまわり畑でつかまえて」からは、アメリカの小説家サリンジャー的なセンスも感じられます。サビで加速する高揚感が素敵です。

メル:サリンジャーが大好きで。99%くらい小説から受けた世界観で作っていますね。

――わかる人には伝わる感じというか。愛が伝わりますよね。

メル:小説や映画を観た時に受ける影響って大きいんですよ。最近は、Netflixをずっと観てますね。Netflix限定のドラマで『このサイテーな世界の終わり』がよかったです。自分と考えてることが重なったりすると、次の日とかに曲を作っちゃいますね。けっこう家に引き篭もってますからね。

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