増田俊樹が踏み出した音楽活動の第一歩 アニバーサリーイベントで届けた誠実な歌声

増田俊樹、アニバーサリーイベントレポ

真っ直ぐ誠実、嘘のない歌声

 ライブパートの客席は、ブルーのペンライトで埋め尽くされた。MVと同じ黒で統一された衣裳に身を包んだ増田が、ブルーのレスポールを肩から提げる。手元に視線を落とし、真剣な表情でギターを鳴らして「風にふかれて」が始まった。ストリングスやピアノの流麗なサウンドにエレキギターが力強さを与えたサウンドで、メロディにはどこか懐かしさがあり胸をキュッと締め付ける。

 この「風にふかれて」について、トークパートで「最初に聴いたとき、増田俊樹っぽさがあると思った。恋を表現した歌ではあるけど、登場人物がその事柄について受け入れがたく思っていると言うか、俺はこうしたいというエネルギーが奥底に眠っている。嵐のなかでも一歩一歩進んでいくような、薄暗さがあるけど大きなパッションをはらんでいる曲。僕の歌い始めの1曲目にぴったりだと思った」と、語っていた。今まで歌ってきたどのキャラクターとも違った、増田俊樹としての歌声が、新鮮に耳に届いた。

 2曲目はゆったりとしたリズムで、爽やかな風がそよぐような「夏空の雨」。「最初は試行錯誤して苦しんで作っていたんだけど、途中で30〜40代になって音楽を楽しんでるおっちゃん像が見えた」と話す。ハンドマイクでステージを動き回りながら歌うと、会場にはハンドクラップが響く。増田も実に楽しそうな表情だ。

 最後に歌われたのが「フレーズ」だ。温かいムードのゆったりとしたリズムの楽曲で、会場が一つになって頭の上で手を揺らす。好きな相手に花束を贈るように、歌に乗せて相手への気持ちを贈るという歌詞で、〈その胸に届くように送るよ〉というフレーズでは、客席に手を広げるようにして歌って届ける彼の姿に、大きな歓声が沸いた。

 また、BUMP OF CHICKENの「カルマ」とMr.Childrenの「放たれる」のカバーも披露してくれた。「カルマ」は高校生のときにプレイしたゲーム、「放たれる」は映画『青天の霹靂』をきっかけに好きになり、カラオケでもよく歌うそう。増田の音楽的ルーツも感じさせる2曲を、ファンもペンライトを揺らして一緒に歌った。

 アンコールでは再び「風にふかれて」を披露した。「今日1回限りの『風にふかれて』をみんなで一緒に作りましょう」と、ここでは間奏で、コール&レスポンスを繰り広げた。耳に手を当てて観客の声を聴きながら、「気持ちいいね」と嬉しそうな表情。そんな観客の声に応えるように〈新たな気持ち抱いて〉という歌詞を〈みんなの気持ち抱いて〉に替えて気持ちを込めて歌うアドリブに、会場からは大歓声があがる。曲の終わりには、バンドメンバーのほうを向いて、手をグルグル回して合図を送って曲を締めくくった。

 最後に「ありがとう」とマイクを通さず、生声で感謝を伝えた増田。ひたむきさや真剣さを感じさせる歌声には、誠実さがあり、そこに嘘は感じられない。この歌声なら信じていいと思わせるような、技術を越えた説得力を感じた。

(写真=笹森健一)

■榑林史章
「THE BEST☆HIT」の編集を経て音楽ライターに。オールジャンルに対応し、これまでにインタビューした本数は、延べ4,000本以上。日本工学院専門学校ミュージックカレッジで講師も務めている。

増田俊樹「風にふかれて」Short ver. from 1st EP "This One"

■関連リンク
増田俊樹オフィシャルサイト
増田俊樹(@ToshikiMasuda38)| Twitter
増田俊樹|TOY'S FACTORY

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