ジャスティン・ビーバー、デビュー10年の軌跡に見るアーティストとしての“成長”

 ずばり『ザ・ベスト』と題された、ジャスティン・ビーバーにとって初めてのベストアルバムが日本限定盤だと聞いて、ちょっと意外な気がした。というのも、目下の彼はデビュー10周年を迎え、次の10年に向けて充電中。波乱のキャリアを振り返るには申し分ない時期だ。それに2010年代がもうすぐ終わろうとしている今、この時代を象徴するミュージシャンであるジャスティンに目を向けることは、時代そのものの考察にもつながる。もちろん2010年代と言えば、テイラー・スウィフトにレディー・ガガ、ワン・ダイレクションといった面々も象徴的ではあるのだが、彼を時代の産物として特筆するべき存在にしているのは、やはりその出自だろう。ジャスティンは動画サイトを介してデビューに至った最初のアーティストのひとりであり、SNS時代の申し子なのだから。

ジャスティン・ビーバー『ザ・ベスト』(デラックス・エディション、初回限定盤、DVD付)

 見事な歌唱力を駆使してヒット曲をカバーする映像に現マネージャーが惚れ込んで、故郷カナダからアメリカに招いたのは、ジャスティンが14歳だった時。その頃には動画の再生回数は1千万回を超え、すでに世界中に厚いファン層を築いていた。それだけに、2009年にデビューシングル曲「ワン・タイム」が登場してからはとんとん拍子で出世し、翌年甘口のR&Bポップを満載したアルバム『My World 2.0』で早速全米ナンバーワンを獲得している。当時16歳1カ月、スティーヴィー・ワンダーが13歳で発表した『12歳の天才』(1963年)に次ぐ最年少記録だ。思えば、ちょうどR&B及びヒップホップが音楽界の主役になりつつあったことも、ソウルやR&Bを聴いて育った彼には追い風となり、大ヒット曲「ベイビー」にリュダクリスの参加を得たのを皮切りに、早いうちからラッパーたちと共演。その一方で、ジャスティンのデビューを後押ししたアッシャーと「サムバディ・トゥ・ラヴ」でコラボするなど、大物と渡り合ってホンモノ感を印象付けることも、怠らなかった。

 そして2ndアルバム『ビリーヴ』(2012年)においても、「ビューティー・アンド・ア・ビート」にはニッキー・ミナージュが、「ライト・ヒア」にはドレイクがラップを添えたりと、引き続き多数のビッグネームをゲストに起用。その「ライト・ヒア」やリードシングル曲の「ボーイフレンド」が好例で、ジャスティンは声変わりを経て深みが増した声をメロウな楽曲に乗せて、より大人な表情を見せていた。よって、音楽的には順調に前進していたのだが、カナダの小さな町(人口約3万人のストラトフォード)で育ったごく普通の少年が、準備段階を踏まずにいきなりスーパースターになるという劇的な環境の変化は、ジャスティンに大きなプレッシャーを課し、ここにきてフラストレーションが限界に達したのか、『ビリーヴ』に伴うツアーが始まるとご存知の通り、各地で騒ぎを起こすことになる。中には法に触れる少々深刻な事件もあり、大いに物議を醸したものだ。

 そんな彼を立ち直らせたのは、ほかならぬ音楽だった。自分がファンの信頼を裏切って、人生をふいにする危機に直面していることを悟ると、キャリアをリセットするべく、日記風に毎週1曲ずつ新曲を綴って発表する企画“New Music Monday”をスタート。シンプルなプロダクションで言葉と声のインパクトを際立たせた、「オール・ザット・マターズ」や「ハートブレイカー」といった曲の数々を作ることで、気持ちを整理しているように見えた。

 この間セールスは少々低迷したものの、ジャスティンは2015年初め、ディプロとスクリレックスのユニット=ジャックÜのEDMアンセム「ホウェア・アー・ユー・ナウ」に客演するという変化球を投げる。これが世界規模のヒットを記録し、ファンの支持が揺らいでいないことを確認すると、さらに半年後、トロピカルハウス風のシングル曲「ホワット・ドゥ・ユー・ミーン?」で正式にカムバック。4枚目のアルバム『パーパス』(2015年)共々世界中のチャートで1位に輝き、アメリカでは「ソーリー」「ラヴ・ユアセルフ」を含む3曲が連続でナンバーワンを獲得。従来以上の好セールスを達成するのだが、重要なのは何よりも、マスコミの称賛を浴びて、『第59回グラミー賞』の最優秀アルバム賞候補に挙がった、作品そのもののクオリティだろう。同作での彼は、一連の騒動のこと、恋愛のこと、当時の心境を率直に曲に投影して再起への意気込みを聴き手に伝え、エレクトロポップからオルタナティブR&Bまで多彩なサウンドに乗せて、かつてなくエモーショナルな歌声を披露。「自分は生身の人間で完璧ではないのだ」と歌う「アイル・ショー・ユー」の深い内省には、成長のあとがくっきり刻まれていた。

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