村尾泰郎の新譜キュレーション
ジェシカ・プラット、シャロン・ヴァン・エッテン……インディシーンの注目SSW新作5選
今回はインディシーンで注目を集めるシンガーソングライターの作品を紹介。ギターの弾き語り、バンド、多重録音など、それぞれがのスタイルで個性的な歌を聴かせてくれる。
ジェシカ・プラット『Quiet Signs』
まずは、<ドラッグ・シティ>からデビューしたサンフランシスコ出身のシンガーソングライター、ジェシカ・プラット。前作から4年振りの新作『Quiet Signs』が届けられた。前作『On Your Own Love Again』は、母親の死や長年付き合っていた恋人との訣別など、様々な別れの影響下で生まれた作品だったが、その後、ジェシカはマルチプレイヤーのマシュー・マクダーモットと恋に落ちて一緒に音楽を作るようになった。とはいえ、アコースティックギターの弾き語りを中心にした歌は、これまでと同じように孤高。ミニマルなコード進行から、ゆらゆらとメロディが浮かび上がり、ジェシカの鼻にかかった歌声は、ニコの魂を持ったブロッサム・ディアリーのようだ。マクダーモットとのコラボレートが功を奏して、歌に奥行きと色合いがほんのり増しているのが本作の魅力で、時折聞こえてくるピアノやフルートはマクダーモットの演奏だろう。このリリースをきっかけに、ぜひ来日して生の歌声を聴かせてほしい。
フルアルバムとしては5年ぶりの新作。その間、彼女は母になり、女優としてデビュー。さらに心理学を学ぶため大学に入学するなど人生の転換期を迎えていた。ジャケットに写し出された散らかった部屋と幼子は、そんな彼女の激動の5年間を現しているようだ。今回、彼女がプロデューサーに迎えたのは、セイント・ヴィンセントやジョン・グラントを手掛けたジョン・コングルトン。ゲストには、ステラ・モズガワ(Warpaint)、ジョーイ・ワロンカー(Atoms For Peace)、ジェイミー・スチュアート(Xiu Xiu)、ラーシュ・ホーントヴェット(Jaga Jazzist)、ブライアン・レイツェルといった多彩なメンツが参加している。サウンド面ではコングルトン効果が現れていて、人工的でエッジが立った音作りは彼女にとって新境地。舞台装置を用意するように、曲ごとに意匠を凝らしたトラックが用意されている。セイント・ヴィンセントとイメージが重なる瞬間もあるが、クールビューテイなセイント・ヴィンセントに比べるとシャロンの歌声は生々しくてエモーショナル。ミュージシャンとして、そして、ひとりの女性としての充実ぶりが伝わる気迫に満ちたアルバムだ。
キャス・マコームス『Tip of the Sphere』
作品を出すごとに評価を高め、<ドミノ>から<アンタイ>に移籍して制作された前作『Mangy Love』(2016年)がピッチフォークのベストミュージックに選出。ミューヨークタイムスに絶賛のレビューが掲載されるなど、今やUSインディーシーンを代表するシンガーソングライターとなったキャス・マコームス。新作『Tip of The Sphere』は、ルー・リードやマーク・リボーなどとの共演で知られるマルチプレイヤー、シャザード・イズマイリーが運営するブルックリンのスタジオ、フィギュア8でレコーディングされた。前作以降、マコームスはGrateful Deadのトリビュートアルバム『Day of the Dead』に参加したが、マコームスは60〜70年代のアメリカンロックの遺伝子を受け継ぎながら、そこにオルタナティブな実験性を織り交ぜている。今回も、ロック、ジャズ、ラテンなど様々な要素を散りばめながら、繰り返されるビートやギターのリフから生み出される浮遊感や、物憂げな歌声が生み出す官能的でサイケデリックな空気は中毒性が高い。個人的にはファーザー・ジョン・ミスティと双璧のグラマラスなUSインディー吟遊詩人として愛聴しているが、本作でも遺憾なく、その香しい魅力を放っている。