Sori Sawadaに聞く、“悲しいラブソング”を綴る理由 アルバム『昼日中』インタビュー

Sori Sawada、悲しいラブソングを綴る理由

音楽で思い出を美化するお手伝いが出来ていれば本望

ーー今作で、シンガーのSayaさんをフィーチャーした経緯は?

Sawada:The Chainsmokersの「Sick Boy」(2018年)をを聴いた時に、「これがやりたい!」って思ったんです。掛け合いという、男女混合の強みを活かしたサウンドを作りたいと。あと、僕の声って「尖っている」ような気がするし、良くも悪くも感情に寄りすぎる傾向があるんです。なので、アルバム1枚通して僕の声だけでは少々厳しいかなと。それでSayaさんの優しい声を入れたいなと思ったんですよね。

The Chainsmokers - Sick Boy (Official Music Video)

ーーSayaさんとは交流も長いのですか?

Sawada;5年ほど前、彼女が歌い手として活動していた時に「一緒に曲を作ってみよう」とお声がけしたことがあって。それが、僕にとっては初のボーカル曲だったんです。そこからずっと交流が続いていて、アルバムを作るタイミングでお呼びしたというわけです。それがきっかけになって、TVアニメ『宇宙よりも遠い場所』のオープニングテーマ「The Girls Are Alright!」を、彼女が歌うことになったりもしているんですよ。


ーーなるほど。本作『昼日中』を聴いていると、まるで7つの短編小説を読んでいるような感覚になります。それぞれ違う物語を、Sawadaさん、Sayaさんという役者が演じているような。実際、どんなふうに作っていったのでしょうか。

Sawada:まず、僕がすべての歌詞を書いてから、Sayaさんを含めたスタッフで集まって「この曲は掛け合いがいいんじゃない?」「この曲はSayaさんが歌うと良さそう」みたいな意見を出してもらうところから始まりました。実は、歌詞を書きはじめた段階では「どこで掛け合いをやるか?」みたいな具体的なことを何も決めていなくて。とにかく文字数など考えず、思いつくままノートに文章を書いていくんです。ほぼ乱文みたいな感じなんですけど、その中から良さそうなセンテンスがあればそれを先頭に持ってきて、それ以外の言葉をすべて消してまた書いていく……という作業の繰り返しから曲が生まれてきましたね。ただ、僕自体は恋愛するかというと、実際はあまりしない方で……。大抵は家にこもっているし、むしろ1人でいる方が好きなタイプなので(笑)、友人から聞いた話を元にしていますね。有難いことに、よく失恋する友人が多いので。

ーー(笑)。ネタの宝庫なんですね。

Sawada:今回、ジャケットのデザインをやってくれている女の子もそう。高校時代からの付き合いなんですけど、彼女からもらった恋愛話とか、幼馴染から聞いた育児話などを「いいな」と思ったら書きためておいて。リリース前には念のため、本人たちに「こんな歌詞にしちゃったんですけど大丈夫ですか?」と了承は取っています。今のところ、みんな理解のある優しい人たちだし、デザイナーの子も友人も僕の楽曲のファンでもいてくれてるので、「全然使っていいよ!」って言ってくれます。

 彼女たちがいなかったら、僕は歌詞なんて書けなかったかもしれない(笑)。実際、今回のアルバムのためにこの倍の曲数を書いたんですけど、初めのうちは全くピンとこなくて。「もう、リリースやめようかな」と思ったくらいで。彼女たちの「恋愛エピソード」をもらいはじめてからは、ようやく調子が出てきました。そんなわけで、アルバムに収録されたほとんどの楽曲は、作業の後の方に出来た曲なんです。

ーーSawadaさんが、彼女たちの失恋話を作品にすることで、供養しているところはあるのかもしれないですね。

Sawada:そう思ってもらえれば嬉しいですけどね(笑)。ちなみに、さっき話した『Flower Girl』に入っている楽曲は、僕の恋愛体験を元にしているんですよ。10曲中7曲は、1人の女の子についてひたすら書いていて。今読み返してみても、我ながら気持ち悪いですね(笑)。でもそれだけ熱量はあったんだなと。今は全然恋愛できていないのも、若干焦っています。

ーー(笑)。どの曲も映像が鮮やかに浮かんできますよね。例えば、岩井俊二監督の映像世界を彷彿とさせる。

Sawada:ああ、すごくよく分かります……(笑)。最近だと、濱口竜介監督の『寝ても覚めても』とか、刺さりましたね。小説だと市川拓司さん(『いま、会いにゆきます』など)とか。市川さんの作品を映画化したものも、イメージをとても巧みに再現されていて好きです。そういう映像から育まれたものが、僕の中ではかなり大きいと思いますね。

ーー英語を話せるSawadaさんだからこそ日本語詞というところにこだわっているのはありますか?

Sawada:それはメチャクチャあります。というのも、ネイティブスピーカーが書く歌詞は、日本人には絶対真似できないと思うんですよ。どれだけ英語を勉強していようが、彼らが生まれ持って身についている言語センスを身につけることは不可能というか。それを痛感したからこそ僕は、「歌詞の中で絶対に英語を使わない」というルールを作った。

 例えばエド・シーランの歌詞を読むと、ものすごくシンプルな単語を用いて深いことを言ってる。それに対して、日本人の書いた英語詞を読むと「なんでこんな難しい表現で、簡単なこと言ってるんだろう?」って思っちゃうんですよね。そこが超えられないなら、わざわざ挑むべきじゃないのかなと僕自身は考えているんです。

ーー歌詞といえば、「遠景」のモノローグもとても印象に残りますよね。

Sawada:さっきも言ったように、歌詞を書くときはまず乱文をバーッと書くんですけど、この曲はその時点で「削れないな……」と思ってしまって。だったら、以前からやりたかったモノローグ方式で語ってしまおうという話になった。僕は、My Hair is Badが好きで、彼らの歌詞にも大きな影響を受けていると思うんですけど、彼らもこういうポエトリーリーディングをよくやるんですよね。

ーー抑揚をつけた話し方は、演技力も必要なんじゃないかと思いました。

Sawada:実は僕、中学生の時に『中学生日記』という番組に出ていたんです。その時に演技もしていたのもあって、台詞めいたものを読むのは好きなんですよね。そういう、自分の中にある持ち味はどんどん出していった方がいいなって。

ーー持ち味でいえば、Sawadaさんの書く歌詞は女性から共感されることがすごく多いですよね。

Sawada:おそらく、僕自身が女性よりのメンタリティだからなんだと思います。これはあくまでも一般論ですけど、男性というのは付き合うまでは女性にアプローチをガンガンしますが、いざ付き合うことになると熱が冷めるところがあるじゃないですか。逆に女性の方が、追われる立場から追う立場に変わることが多いと思うんです。で、My Hair is Badはそういう時の男側の気持ちをリアルに書いていて、「うわ、こんなふうに女性をフるのか……」とビックリさせられることが多い(笑)。だったら僕は、そういう場合の女性側の気持ちを丁寧に描写したいなと思って、書いているうちにこうなったんです。

ーー「女心を想像して書く」というよりは、Sawadaさんの中に元々ある「女性性」と向き合って、そこから出てくる言葉を紡いでいる感じなのでしょうね。

Sawada:おそらくそうだと思います。あと、さっき話したデザイナーの女の子がものすごく「女子」なんで(笑)、彼女と話しているうちに自分がそっち側に引っ張られている、というのもあるかもしれないですね。

ーー歌詞だけでなく、他の表現方法にもチャレンジしたい気持ちはありますか? 例えば小説とか。

Sawada:メチャクチャありますよ。実は今、このアルバムにつけるブックレット用のライナーノーツを書いているんですけど、そこにも1曲ずつ歌詞の世界観をより掘り下げたストーリーを付けているんですね。それがとても楽しくて。いつかは小説にも挑戦したいです。

ーーSawadaさんは、この作品をどんな風に聴いて欲しいと思いますか?

Sawada:アルバムを聴いて、悲しい気持ちになって欲しいです(笑)。「いい曲ですね」だけで終わってしまうのはちょっと不満で、「元カノのことを思い出して悲しくなった」とか、「彼との辛い別れを思い出して泣いた」というコメントをいただくと、「ああ、作って良かったなあ」って思うんですよ。


ーー(笑)。でも、人はなぜわざわざ悲しい気持ちになるために曲を聴くんでしょうね。

Sawada:きっと、思い出を美化しているんだと思います。実際はそんなに綺麗でもなかったエピソードも、音楽と一緒に思い出すことで「ああ、こんな美しい思い出だったんだ」という風に少しずつ美化され、結晶化されていくんじゃないかなと。そのためのお手伝いが出来ていれば、僕としては本望ですね(笑)。

(取材・文=黒田隆憲/写真=はぎひさこ)

Sori Sawada『昼日中』

■リリース情報
『昼日中』
2月27日(水)発売
【初回限定盤】(CD+ブックレット)
¥2,000(税別)
【通常盤】(CD)
¥1,500(税別)

1. drama
2. 浴衣帯
3. たった
4. 蕃茄
5. 遠景
6. さよならとメーデー
7. 昼日中

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