『アリー/ スター誕生』、『ブラックパンサー』……『第91回アカデミー賞』歌曲賞の注目作は?

△(連下)「I’ll Fight」/ジェニファー・ハドソン(『RBG 最強の85歳』)

 「I’ll Fight」は、アメリカの最高裁判事の1人であるルース・ベイダー・ギンズバーグを追ったドキュメンタリー映画『RBG 最強の85歳』の主題歌だ。1970年代に弁護士として、女性やマイノリティーに関する数々の重要な裁判に勝利し、今日の礎となる偉業を成し遂げ、1993年からは最高裁判事の1人として現在に至るまで活躍しているルース。とりわけ、トランプ政権樹立後は、リベラル最後の砦として、その立ち振る舞いや発言が注目を集め、若者たちからはロックスターのように支持されている彼女の経歴をひもときながら、その人間性に迫った秀逸なドキュメンタリー映画として、長編ドキュメンタリー賞にもノミネートされている本作。そのエンドロールに流れるこの曲を生み出したのは、これまで数々のヒットソングを生み出し、今回が実に10回目のノミネートとなる“バラードの女王”、ダイアン・ウォーレンだ。そして、「私は戦う」というルースの生き様にも通じるメッセージを持つこの曲を圧巻の歌声で歌い上げるのは、ジェニファー・ハドソン。かつて、ビヨンセが主演した『ドリームガールズ』に出演し、アカデミー賞助演女優賞に輝いたことでも知られる、あのジェニファー・ハドソンである。彼女たちも惜しみない賛辞と尊敬を寄せるルース・ギンズバーグ。日本ではあまりなじみのない人物ではあるけれど、5月10日に予定されている本作の日本公開に先んじて、ルースの若かりし頃を描いた映画『ビリーブ 未来への大逆転』が3月22日から日本公開されるなど、今後ますます注目を集めるであろう人物だ。

“I’ll Fight” | Jennifer Hudson | Music & Lyrics by Diane Warren (From the Motion Picture ‘RBG’)

☆(大穴)「When a Cowboy Trades His Spurs for Wings」/ウィリー・ワトソン&ティム・ブレイク・ネルソン(『バスターのバラード』)

 そして最後に、このラインナップに並んでノミネートされること自体がある意味驚きだった『バスターのバラード』の主題歌「When a Cowboy Trades His Spurs for Wings」。日本でも人気の高いコーエン兄弟の最新作とはいえ、『ROMA/ローマ』と同じくNetflix配給という限定された形での公開となった本作は、いわゆる西部劇の形をとった6つのエピソードからなるオムニバス形式の映画だ。今回主題歌賞にノミネートされた同曲は、その冒頭を飾るエピソードの最後、決闘の末に勝者と敗者になったガンマン……すなわち生者と死者がデュエットで歌い上げるという、何ともコーエン兄弟らしい皮肉の効いたカントリー調のバラード曲となっている。劇中では、バスター役のティム・ブレイク・ネルソンと、流れ者役を演じたフォークシンガー、ウィリー・ワトソンがデュエットしているが、授賞式では同曲の作詞作曲者である人気フォークシンガー、デヴィッド・ローリングスとギリアン・ウェルチによるパフォーマンスが予定されている。アカデミー会員たちにも人気の高いコーエン兄弟の映画であること、そして依然としてアメリカで支持者の多いカントリー調の楽曲であることなどから、思わぬ“大穴”となる可能性もある同曲だが、例年以上にビッグネームが並ぶ同賞のノミネートの中では、いささか地味な印象があることは否めない。

The Ballad of Buster Scruggs | Official Trailer [HD] | Netflix

 レディー・ガガとケンドリック・ラマーというグラミー賞にもノミネートされたアーティストの楽曲がエントリーしていることはもちろん、主題歌賞にはノミネートされなかったものの、ロックバンド・クイーンを描き、日本でも大ヒットを記録中である映画『ボヘミアン・ラプソディ』が作品賞、主演男優賞など主要部門にノミネートされるなど、いつにも増して音楽色が強いような気がする今回のアカデミー賞。それだけに、その授賞式は映画ファンのみならず、音楽ファンからも大きな注目を集める一大イベントとなることだろう。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。



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