村尾泰郎の新譜キュレーション
サンドロ・ペリ、Cat Power、冬にわかれて……秋に聴きたいパーソナルな雰囲気の歌もの5選
秋も深まるなか、今回はルーツ色の強いものから実験的なサウンドまで、パーソナルな雰囲気を漂わせた歌ものを紹介。
サンドロ・ペリ『In Another Life』
まずは、ここ数年、注目を集めるトロントシーンのキーパーソン、サンドロ・ペリ。最近は即興をベースにしたユニット、Off Worldを結成して音響的な作品を発表していたが、ソロ名義としては7年振りの新作『In Another Life』は歌もの。本人いわく「終わりの無いソングライティングの実験」がテーマだったらしく、1曲目のアルバムタイトル曲は、いきなり24分にもおよぶ長尺のナンバー。シークエンサーが小刻みにループするなか、恐らく盟友エリック・シュノーによるサイケデリックなギターやピアノが繊細なサウンドスケープを構築。そこにペリの儚げな歌声がゆらゆらと漂っている。また、ゲストで参加したDestroyerことダン・ベイハーの哀愁を帯びた歌声も素晴らしい。実験的でありながら歌心を大切にしたサウンドは、ペリがリスペクトするアーサー・ラッセルに通じるものもあり、いつまでも聴いていられそうな心地良い浮遊感が最高。
Cat Power『Wanderer』
Cat Powerことショーン・マーシャルの6年振りの新作『Wanderer』は、<マタドール・レコード>から<ドミノ・レコーズ>に移籍しての第一弾。今回はセルフプロデュースでLAとマイアミを行き来しながらレコーディングした。本作についてショーンは「これまでの旅路の産物。私はギターを片手に街から街へと移ろって自分の話をしてきた」とコメントしているが、エレキギターやピアノの弾き語りを軸にして、最小限度の楽器を使ったシンプルな演奏はブルージー。余白を大切にした音作りでショーンの歌声をじっくりと聴かせる。痛々しさと力強さを感じさせるハスキーな歌声は、まさに「放浪者(ワンダラー)」の心の呟きのようだ。ラナ・デル・レイがゲスト参加した「Woman」では、美しいデュエットを聴かせてくれたりも。
冬にわかれて『なんにもいらない』
シンガーソングライターの寺尾紗穂。細野晴臣や星野源など様々なアーティストのサポートを務めるベーシスト、伊賀航。ソロ活動に加えてセッションミュージシャンとしても活躍するマルチプレイヤーのあだち麗三郎が新バンド・冬にわかれてを結成。1stアルバム『なんにもいらない』は、メンバーそれぞれが曲を提供。ジャズ、ソウル、ニュー・オーリンズなど様々な音楽性を織り込みながら、名人が淹れたコーヒーのように味わい深く、洗練されたポップソングを聴かせてくれる。凛としていながら生々しい温もりを残す寺尾の歌声を中心に据えて、情感豊かな伊賀とあだちの演奏はまるで寺尾と一緒に歌っているようだ。シュガーベイブやはっぴいえんどなど先輩達の歌を受け継ぎながら、しっかりと自分たちの声を持った頼もしいバンドの登場だ。