阿部真央が大切にしてきた“伝わる”ということ 圧巻の歌声披露した10周年記念武道館ライブ

阿部真央10周年武道館ライブを見て

 阿部真央が1月22日、日本武道館で開催した『阿部真央 らいぶNo.8 ~ 10th Anniversary Special ~』から感じたのは、デビュー10周年を迎えたミュージシャンとしての凄みと、歌に溢れる気迫、そして飾らない言葉から伝わる誠実さだった。

 2018年11月から『Road to 10th Anniversary』と題した全国ツアーを開催、この武道館公演の後、1月27日神戸ワールド記念ホールでファイナル公演を行った阿部真央。1月にはこれまで発表してきた楽曲とCD未収録曲、さらには書き下ろしの新曲を収めたベストアルバム『阿部真央ベスト』をリリースしたばかり。今回のライブもベストアルバムの収録曲を中心としたセットリストが組まれていた。

 1曲目の「デッドライン」は、アコースティックギターを手にした阿部真央による弾き語り。真紅のライトに照らされる中、ギターを掻き鳴らし感情そのまま歌う姿に会場全体に緊張感が走った。ギターと歌のみでここまで強烈なオーラを放つことができるシンガーもそうそういない。しかも10周年記念ライブの1曲目から〈私の何を知ってるの〉という言葉が投げかけられるエッジの効いた選曲だ。

 そんな挨拶代わりの弾き語りを終えると、続く「Believe in yourself」からはバンドセットによるステージに。デビュー曲「ふりぃ」はイントロが鳴ると同時に大きな歓声がわいた。“自らを解放して今を生きるんだ”という強いメッセージが込められているこの曲は時代を超えて多くの人を励まし、勇気づけている。

 CO・OP共済のCMソングとしてもおなじみの「K.I.S.S.I.N.G.」はキュートに、岡崎体育をアレンジに迎え不倫を題材にした曲「immorality」は妖艶に、昨年発表された楽曲群で様々な表情を見せていく。また、先行きに対する不安がストレートに歌われた「19歳の唄」、タイトルどおりのラブソング「貴方の恋人になりたいのです」など、日記に綴られた言葉のように直球な歌詞も阿部真央の楽曲の特徴の一つ。そういった曲がデビュー当時から応援するファンはもちろん、多くの悩みを抱える若者たちの心を掴み続けている。続く「morning」で見られたボーカルの豊かな表現力も目を見張るものがあった。ドラマチックに歌を聞かせる姿はさながら女優のよう。報われない男女の関係を歌った楽曲の情景が鮮明に浮かんだ。

 転換中、5周年ライブで武道館のステージに立った当時の映像が流されると、阿部真央はドレスに衣装チェンジ。花道の先に設けられたステージで行われたアコースティックセットのコーナーでは、「母である為に」「Don’t leave me」「いつの日も」と、愛する人へ向けた様々な愛の歌が歌われた。アニバーサリースペシャルとして、「キレイな唄」からは徳澤青弦カルテットが演奏に参加。ストリングスで不穏な空気を掻き立てる「側にいて」の後には、賑やかな音色による「マージナルマン」で会場一体の盛り上がりを見せた。「loving DARLING」に続いて披露された「なんにもない今から」は、10周年を目前に生まれた曲らしく、いい意味で肩の力の抜けたポジティブさのある曲。〈捨てられない夢なら 捨てずに温めとけよ その温もりで命燃やそうぜ〉というフレーズが強く耳に残った。

 「ポーカーフェイス」や「変わりたい唄」からの盛り上がりの中、「モットー。」で会場のテンションは最高潮を迎えた。「みんなの笑顔が10年間の結果です」、清々しい表情で阿部真央は語る。そして、5周年ライブを経て再び武道館のステージに立てたことに感謝しながら、10周年を通過点にしたますますの活躍を誓い、大合唱が起こった「ロンリー」で本編最後を盛大に飾った。

 アンコールでは、「まだ僕は生きてる」「それぞれ歩き出そう」の2曲を披露。オーディエンスと近い距離感での会話を楽しむ中で「音楽は浸透していくものだと思ってる。コストパフォーマンスのいい歌手として、これからもみんなの日々に寄り添っていきたい」と語っていたのが印象的だった。自身の楽曲が聞かれるだけではなく、歌われる対象としても支持されていることを表した発言だが、それだけ阿部真央の歌が聞く人それぞれの歌になっている証だろう。阿部真央の力強い歌声を聞いていると、自然と一緒に口ずさみたくなり、一緒に歌うことでメッセージが心に刻み込まれるような感覚がある。多くの共感を集め、歌いたいと思わせることができるのは、もちろん阿部真央が歌う歌の力あってこそだ。

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