桑田佳祐は日本の大衆音楽そのもの 壮大なエンターテインメントによる最後の「ひとり紅白歌合戦」
「平成の歌はむつかしい、修行のよう」
過去二回の「ひとり紅白歌合戦」には、それぞれ「昭和八十三年」「昭和八十八年」と年号が入っていた。今回は「平成三十年度」と初めて「平成」がついた。「昭和歌謡大ヒットメドレー」の最後が尾崎紀世彦の「さよならをもう一度」だったのは「平成最後」という意味もあったのかもしれない。特別枠としてサザンオールスターズ全員が登場して歌ったのが「世界に一つだけの花」だったのも「平成」を代表する一曲だからだろう。サザンは新しい元号になる来年にツアーを行う。特別枠はザ・ドリフターズの「ちょっとだけよ」のおまけつきだった。
「平成の歌はむつかしい、修行のよう」という前振りの「雪の華」は、この日の聴きものの一つだった。昭和から平成、そして再び昭和。同時代のYMOや山下久美子からユーミンと荒井由実、そしてサザンのイベントにも登場したことのある西城秀樹の「YOUNG MAN (Y.M.C.A)」のY・M・C・Aの振りつけが「M・O・M・O・K・O」になり映像がちびまる子ちゃんになりテーマ曲「100万年の幸せ!!」に変わっていく流れは今年亡くなった二人の追悼という意味でも見事としか言いようがない。平成30年になっていた。
思いがけなかったのが「Havana(ダメなバナナ)」だ。カミラカベロの歌で全米一位になった去年の曲。元竿師、つまりエロを仕事にしていたバナナ園従業員。使い物にならなくなったバナナをネタにしたエイズキャンペーンができるのも桑田佳祐くらいだろう。彼にとっての最後のAAAは「大衆とほどよくがっぷり四つを組み、ヒット曲を作り続けることを私は辞めないだろう」という決意表明で締めくくられた。
そして、あの大フィナーレである。平成最初の年になくなった美空ひばりの「愛燦燦」を歌う彼は彼女の東京ドームコンサート「不死鳥」を思わせる衣装でせりあがっていく。長さ18メートル高さ6メートル。「紅白」での小林幸子の売り物のような絵巻物姿で幕を閉じた。
さらに、その後があった。すでにおなじみになっていた和田アキ子の巨大人形とアントニオ猪木、内田裕也を模した巨大人形に挟まれて歌う「古い日記」。サザンのメンバーも花束を持って登場。最後は全員の年末恒例の第九「歓喜の歌」の大合唱で終わった。
それにしても、と改めて思う。三度に渡って行われた「ひとり紅白歌合戦」で重なっていた曲はなかったのではないだろうか。
たったひとりで戦後から今日に至る大衆音楽の歩みをたどる。過去をなぞるのでなく新しい解釈や遊びを加えて濃密で壮大なエンターテインメントにする。こんな企画を実現できる人が他にいるだろうか。桑田佳祐は日本の大衆音楽そのもの、大衆音楽の化身なのだと思う。
(文=田家秀樹/写真=西槇太一)
桑田佳祐 Act Against AIDS 2018「平成三十年度! 第三回ひとり紅白歌合戦」
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