渡辺志保が選ぶ、2018年HIPHOP年間ベスト10 米国のポップミュージックシーンを制した年に

 ヒップホップの醍醐味の一つでもある、フレッシュな若いラッパーたちのアルバム作品が相次いだのも、今年の特筆すべき点の一つ。大躍進を遂げたルーキーの一人は、間違いなくアトランタ出身のリル・ベイビーだろう。Migosらと同じレーベル、<Quality Control>に所属し、シングル「Yes Indeed」のヒット、『Harder Than Ever』、『Street Gossip』と二枚のアルバムを放ち、同じアトランタの新鋭ラッパー、ガンナとともにコラボアルバム『Drip Harder』を発表した。マネーバッグ・YOやヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲイン、キー・グロックといったサウスの若手勢のアルバム作品も相次ぎ、楽しい一年であった。サウスといえば、ヒューストンでもバン・Bやリル・キキ、ポール・ウォールといったローカルシーンを盛り上げてきたベテランたちのアルバム作品が量産されたのも、非常に印象的だ。今やメンフィスを代表する存在となったヤング・ドルフ『Role Model』も重厚かつストリート臭さが漂う名作だった。

Drake & Lil Baby "Yes Indeed" (Music Video)

 ラップ・ミュージックは社会を映す鏡でもあるが、今年、筆者がその点において特に心を動かされたのが、ミーク・ミル『Championships』である。これまで、地元であるフィラデルフィアのフッドを背負うギャングスタラッパーとして名を馳せてきたミークであるが、今や、刑務所をめぐる環境における改革や、人種的マイノリティをめぐる行政・司法のあり方を問う、アイコニックな存在となった。また、昨年末から今年は、より若いアーティストを取り巻くメンタル面の問題、そして、それにまつわる薬物濫用にどう向き合っていくかといったトピックも取りざたされるようになった。過激でエッジーな部分だけに目を向けるのではなく、彼らが置かれた環境や、彼らのアーティスト性をどう尊重していくかということについても考えなければいけない局面に差し掛かっていると思う。マック・ミラー『Swimming』やXXXテンタシオン『?』といった作品から我々が学ぶことはたくさんあるように思う。

Meek Mill - Uptown Vibes ft. Fabolous & Anuel AA (Official Audio)

 2019年も、多種多様で濃厚なヒップホップ作品との出会いが多くあることを祈る。来年のシーンも、今から楽しみでしょうがない。

■渡辺 志保
1984年広島市生まれ。おもにヒップホップやR&Bなどにまつわる文筆のほか、歌詞対訳、ラジオMCや司会業も行う。
ブログ「HIPHOPうんちくん」
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blockFM「INSIDE OUT」※毎月第1、3月曜日出演

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