いきものがかりが国民的グループになり得た理由 ソロ活動から活動再開までを追う

 放牧中も3人の個々の活動は実に、いきものがかりらしいものだった。水野良樹はこの2年で、関ジャニ∞や横山だいすけ、山本彩、和田アキ子、水谷千重子、大原櫻子、坂本真綾といった、様々なジャンルのアーティストへの楽曲提供をしており、その全方位的な仕事ぶりは目を見張るものがあった。

 一方、山下穂尊はエッセイ集を出版したり、音楽フェスのナビゲーターを務めたりと活動の幅を広げながら、今年の秋に10代の女性アーティストであるJUNNAに楽曲提供したのも記憶に新しい。制作は山下がJUNNA本人と話をして彼女が考えていることを感じ取った上で「情熱モラトリアム」という曲が書き下ろされた。世にリリースされたものとしては数少ないものの、人に寄り添って作品を生み出す姿勢が彼らしい。

 そして吉岡聖恵も象徴的だった。いきものがかりとしてではなく彼女のソロなのだから、とことんパーソナルな想いを歌に乗せた作品を作っても良かったはずなのだが、リリースされたのは彼女が好きな大滝詠一や中島みゆきらのヒットソングを歌ったカバー集。『うたいろ』と名付けられたそのアルバムは、吉岡が自分の色そのままを歌に表現するのではなく、歌を大切に表現することでその中に自分の色を見つけ出すような、そんな少し奥ゆかしいとも言える彼女のシンガーとしてのスタンスが垣間見えるものだった。

 そんな風に放牧中にも3人は、だからこそいきものがかりは愛されてきたんだなと思わせる活動を見せてくれた。復帰に際し、ファンクラブ会員に「太陽」という新曲をCDにして郵送したそうだが、この曲には再び前を向いて歩いていこうという彼らの前向きなメッセージが込められているようだ。

 2年間という決して短くはない時間の中で彼らはどんなことを想い、どんな経験をし、それをどのように今後の活動にフィードバックしていくのだろうか。国民的ポップグループ・いきものがかりの充電満タンな活動再開はとても喜ばしいことだし、彼らが歌うべきテーマはきっとまだまだある。これからも時代に寄り添って、移ろう日本人の心と風景を、胸が震えるようなメロディで歌に刻み続けてもらいたい。

■上野三樹
音楽ライター。現在は『ROCKIN'ON JAPAN』『音楽と人』『月刊ピアノ』『anan』『音楽ナタリー』などで執筆中。子供は春から幼稚園の年中さん。愛しい娘との毎日も楽しいのですが、育児と両立しながら働く中であらためて「私ってほんとに仕事が好きなんだなー!」と実感しています。ウェブサイト「YUMECO RECORDS」主宰。ブログ「愛されジョーズ」更新中。

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