宇多田ヒカル「Too Proud」新リミックスでグローバルなコラボ 参加アジアンラッパー3名の実力
そしてEKは、現在韓国で旋風を巻き起こしている期待の新鋭ラッパーだ。ヒップホップグループ・Most Badass Asian(以下MBA)のメンバーとして2015年から活動を開始し、2017年にMBAとソロ名義でそれぞれ初のEPを出したばかり。インディペンデントの新人であるにもかかわらず、群を抜いた実力の高さで瞬く間に頭角を現し、韓国ヒップホップシーンの名だたるラッパーたちから引っ張りだこになった。特にベテランラッパーのHuckleberry PおよびスーパールーキーだったJUSTHISとコラボしたトラック「One of Them」では、韓国ヒップホップシーンでトップクラスのスキルを持つ2人に負けない派手なフロウで強烈な印象を残した。
さらに韓国最大のヒップホップウェブマガジン2社が共同開催した『Korean Hiphop Awards 2018』では、有望な新人をピックアップする「KHA NEXT」に抜擢。このようにヒップホップシーンの中では定評があった彼だが、最近出演したラップサバイバル番組『SHOW ME THE MONEY 777』で見せた活躍によって大衆的にも爆発的に知名度を上げた。彼はレベルの高いスキルと一歩も退かないタフな姿勢で番組の参加者と視聴者を魅了。同番組内で制作されたトラック「GOD GOD GOD」も話題をさらった。優勝こそ果たせなかったものの、その場の誰もが熱狂するような素晴らしいパフォーマンスを披露し、1万3000人にも上る応募者の中から最終的にベスト12にまで残るという好成績を収めた。韓国内にはEKのネクストステップを待つ人々が大勢いる。
以上のように、それぞれの国で活躍中のアジアンラッパーを集めた「Too Proud (L1 Remix)」は、複数言語によるフロウによって新鮮な魅力を見せた。なによりそのラインナップを組み立てた宇多田ヒカルに改めて感心する。とりわけXZTとEKについては母国でも今年ようやくブレイクしたという段階であることを考えると、他国のトレンドまで読み取る宇多田ヒカルの鋭い感覚と情報力に驚かされる。そして自身と並ぶ“クイーン”の位置づけにいるSuboiを起用し、J-POPでは滅多に見られない東南アジアのアーティストとのコラボレーションを見せたこと、新鋭とベテランのバランス、さらに性別のバランスまで絶妙に組み合わせた点などもさすがとしか言いようがない。宇多田ヒカルが日本以外のアジアのアーティストと初めてコラボした本トラックをきっかけに、今後もこのようにグローバルで新鮮なコラボが続くことを期待したい。
■soulitude
日韓の大衆音楽事情を専門とするライター。歌詞・記事の翻訳や音源の流通、キュレーションなどの職業を経て、今は日韓の音楽シーンの架け橋となるべく活動中。
■鳥居咲子
韓国ヒップホップ・キュレーター。ライブ主催、記事執筆、メディア出演、楽曲リリースのコーディネートなど韓国ヒップホップにおいて多方面に活躍中。著書に『ヒップホップコリア』。
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