Hi-STANDARDによる新たなサプライズ “語り合いたくなる”ドキュメンタリー映画公開までの軌跡
ここから1カ月後の10月8日には渋谷駅地下コンコースの壁面を使用し、映画の“読む予告編”こと「Hi-STA ZINE」を無料配布。壁面に貼られたジン(冊子)を通じて映画の断片がひと足先にキャッチできるというものだった。このZINEは昔、ライブハウスシーンやパンクシーンを中心に展開されたDIY精神の残るファンジンを作ろうという趣旨のもと制作され、予告動画など映画の断片が一切公開されていない状況下で想像を駆り立てるような内容になっていた。当然この話題はSNSを通じて世間に広まり、掲示から3時間程度でまず2000部がなくなり、その後何度かの補充を経て、計6000部が剥がされ持ち帰られた。ZINEがすべてなくなると、その下からは約400カットの写真とともに、10月20日19時より新宿アルタビジョンにて長尺の予告編が公開されることがサプライズ発表される。なお、このジンは10月15日からは全国の上映劇場、CDショップ、ライブハウスなどでの配布も展開された。
そして劇場公開まで3週間に迫った10月20日、ついに映画の一部に触れることができるチャンスが訪れた。当日は夕方から突然の雨に見舞われたが、新宿アルタビジョンの周りにはこの日を待ちわびた大勢のファンが集結。スマホを片手に、5分におよぶ予告編を堪能した。なお、この映像はのちにYouTubeでも公開され、多くのロックファンの間で拡散されていく。
その後、メディア向けの試写会が実施されると、いち早く映画を目にしたアーティストや著名人、ライターたちがSNS上で感想をつぶやき始め、さまざまな意見が飛び交うことに。これらの声を目にした多くのファンは、その内容に想像を掻き立てられ、「早く観たい!」という熱がマックスまで高まることとなった。
これら映画にまつわる施策をそのままバンドの活動スタンスと紐付けることはできないかもしれない。しかし、Hi-STANDARDのメンバーやスタッフのみならず、彼らに関わる人間がバンドのスタンスに共感し、こういったサプライズでファンを楽しませようとするバンドのスピリットを受け継いだ姿勢には好感が持てる。初めて映画が公開されると知ったときの驚き、「Hi-STA ZINE」を手にしたときの喜び、そして初めて目にする映像ばかりの5分にわたる予告編映像を観たときの衝撃は、初めてCDショップ店頭で『ANOTHER STARTING LINE』を見つけたとき、街中で『The Gift』発売を告げる巨大ボードを見かけたときのそれに匹敵したはずだ。いやあ、痛快ったらありゃしない。