TRUEが『Another colony』で掲げた、ボーカリスト/作詞家としての矜持

TRUEが掲げた“矜持”とは

心の空腹を満たすために必要のないものを追い求めるラブソング

ーーそしてカップリングは「名前のない空腹」……なんですけど、もうタイトルからして“勝ち”ですよね(笑)。

TRUE:あざーっす!(笑)。

ーー歌の文句としては聴き慣れない「空腹」なんて言葉が冠されてるからちょっとユーモラスな曲だったり、言葉遊びの効いた曲だったりするのかしら? と思ったら……。

TRUE:ガッツリ失恋の歌(笑)。

ーー〈絶望に捕食されて〉〈孤独を食べ尽くして〉と、歌われれば腑に落ちるんだけど、歌われるまで気付きもしなかった手つきで誰かとの別れを表現してみせるところに作詞家・唐沢美帆の才能を感じました。

TRUE:でもおっしゃる通り、みなさん、心当たりはあると思うんですよ。

ーーハリウッド映画なんかによくある、失恋した女の子がバケツ大のアイスを容器から直接食っているイメージというか。傍目にはマヌケなんだけど、本人は心底ヘコんでるんだろうなあ、っていう。

TRUE:あっ、まさにそういう感じです。そうか、バケツアイスみたいな感覚って表現すればよかったのか(笑)。

ーーバケツアイスという先人の例を引かずに生み出したとなると、この歌詞はどうやって着想を得たんですか?

TRUE:私、歌詞を書くときって「言葉のスケッチ」をするんですよ。作業部屋の壁がホワイトボードになっているので、そこに思い付いた言葉をとにかく書き殴っていて。そのスケッチを見ながら「カップリングはなにを書こうかな?」って考えたときに、スケッチの中のどの言葉を見て思い付いたのかは思い出せないんですけど「あっ、ラブソングにしよう」と思って。しかも「ただ単純な男女のラブソングにするのはもったいないな」とも思って。例えば私だったら、過去に思い描いていた理想の音楽像との決別というか……実は必要のなかったものをただただ自分の気持ちの空腹を満たすためだけに追い求めていた、ってことがあったんですけど、それを言葉に置き換えてみたら面白いんじゃないかなあ、と思って書いた曲ですね。

ーー1行目からしてすごいパンチラインが炸裂しますよね。〈太陽が生まれたあの日に 私の愛はたぶん 死んでしまったんだ〉。

TRUE:なにかほしいものが手に入らないときってすごく絶望的な気持ちになるじゃないですか。で、絶望の逆にあるものってなんだろう?って考えたとき、ひらめいたのが「太陽」だろう、と(笑)。

ーーだからその落差でより絶望的になれる(笑)。

TRUE:『ユーフォ』なんかをきっかけに私を知ってくださった方は「TRUEはすごく明るくて元気な人」っていうイメージをお持ちだろうし、そういう側面ももちろんあるんですけど、カップリング曲やアルバム曲を聴いてくださる方は私が実はすごいネガティブだってことを知ってくれていると思っていて……。

ーーネガティブさんでしたか(笑)。

TRUE:はいっ!

ーーそんな明るくネガティブを自称されても(笑)。

TRUE:でもホントに私、肯定したいできごとに直面したらまず否定の姿勢で接することにしているんです。否定し終わらないと肯定できないというか……。自分を評価したり、ホメてあげたりするときも、いったん自分のダメなところを洗い出してけなした上でないと、評価できなくて。今回もレーベルのスタッフさんからは「前向きな強い女性として書いてください」ってオーダーをされたんですけど、「いや、この曲はそういう曲じゃないんです」ということでこの詞を書かせていただきました(笑)。

ーー「Another colony」がアニメや視聴者との共感ベースで書かれているように、「名前のない空腹」も誰かと共有したい?

TRUE:カップリングやアルバム曲の場合、聴き手のことは全然イメージしてないですね。私の心的葛藤のみを描くようにしています。ただ、さっきの「みなさん、心当たりはありますよね」じゃないんですけど、私もみなさんと同じように普通に日常を生きている以上、私が信じている言葉や私から生み出される言葉は、きっと誰かの言葉にもなるとは思っていて。「名前のない空腹」は、申し訳ないくらい私の悲しみにのみ寄り添って書いた曲なんですけど(笑)、それでもきっと誰かの悲しみにも寄り添えるんじゃないかな、とは思ってます。

ーーもう11月だし、来年の話をしても鬼に笑われはしないかな?と思うので聞きますけど、2019年ってどんな1年にしたいですか?

TRUE:デビュー5周年イヤーということで、2月にシングルコレクションライブ(『TRUE 5th Anniversary Live Sound! vol.1 〜SINGLE COLLECTION〜』)をやろうかなと思っているんですけど、実は5周年ということにあまりピンときてなくて。もちろん大事なんだけど、ここで1回キャリアを締めくくっちゃったら、私の今の情熱も終わっちゃいそうで……。

ーー確かに一度ピークを作っちゃうと、あとは下降するだけになっちゃいますもんね。

TRUE:それは当然イヤなので「5年間楽しかったね」じゃなくて、できるならばその先を提案できる1年にしたいですね。実現するかはわからないですけど、5周年記念ライブの第2弾ではホールコンサートとか、そういうただ盛り上がってオシマイ、のライブじゃない。きちんと音楽を聴きに来たみなさんと一緒に言葉と音を噛みしめられるライブが出来たらいいなと思ってます。5周年をお祝いしつつ、そういう新しいTRUE像を見せられるといいですよね。
(取材・文=成松哲/撮影=はぎひさこ)

■商品情報
「Another colony」
TVアニメ『転生したらスライムだった件』エンディング主題歌
TRUE
¥1,200 (税抜価格)+税
2018年11月07日

1.Another colony
作詞:唐沢美帆 作曲:中野領太 編曲:BBC
2.名前のない空腹
作詞:唐沢美帆 作曲:柴山太朗 編曲:成瀬裕介(onetrap)
3.Another colony(Instrumental)
4.名前のない空腹(Instrumental)

TRUE公式サイト
公式Twitter

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