TRUE『Another colony』インタビュー
TRUEが『Another colony』で掲げた、ボーカリスト/作詞家としての矜持
アニメの世界に恩返しがしたいし、アニメの中に生きていたい
ーーしかも最初の話のとおり、そのTRUEさんの信じるものがものすごく今の時代にフィットしている。多様性が叫ばれる一方で、どうにもみんな、〈孤独な正義〉や〈敗北〉と〈勝利〉にこだわっているよなあ、という感じがしますから。このヌケのいいロックに乗せて「そういうの、どうでもよくない?」って歌うのって、ある種の福音になる気がするんです。
TRUE:そういうことが歌えているのであれば、それは『転スラ』というアニメのおかげだと思います。作詞家として6年くらい、自分の歌う歌詞はもちろんですけど、いろんな方、いろんなキャラクターにアニメソングを提供させていただくうちに、アニメ作品の中に自分の姿を見つけるのがすごく上手くなった感じがしていますから。
ーーでは『転スラ』という物語においては、どこに視点を置きました?
TRUE:「弱かった主人公がいろんな人と出会うことでだんだん強くなります」というのが、いわゆるアニメのヒーロー像だと思うんですけど、この作品って主人公のリムルが最初から強いんですよ。しかもその後、どんどん強くなるし、スキルも増やしていくんだけど、それと同時に種族を越えて、どんどんいろんな人たちを仲間に入れて、しかも成長させていく。そして彼らの成長を見ることで自分もまた成長するというお話なんです。
ーーまさに人種・民族の多様性を認めて、推し進めるお話ですよね。
TRUE:しかも私自身リムルであるというか、TRUEとしてデビューしてからの私も仲間の成長とともに成長しているな、という実感があるんです。私ひとりでは音楽は作れないし、こうやって曲に対する思いを聞いてもらったり、それを言葉にしたりすることはできないんだけど、今は周りにいろんなことを叶えてくださる方とか、スキルを提供してくださる方、しかも立場やお仕事はそれぞれバラバラの方がたくさんいらっしゃってくれて。例えばジャケットを作るときでも私は「絶対こういうデザインがいい」って提案をしてみたんだけど、デザイナーさんが全然違うことを提案してきたとき、「あれ?」と思っても、いったんその方のお話を聞いてみたら、実は私が考えてもなかったようなことを考えていて、実際、そのお話に乗ってみたら、私の想像の何倍も素敵なものになったり、そういう化学変化をたくさん経験してきたので。だから「いろんな人と仲良くしてみると、なにか変化があるかも」っていうリムルに自然と共感できたんですよね。
ーーいろんな人と折り合うことで個人の表現の自由を獲得する。すごくいい矛盾をはらんでますね(笑)。
TRUE:そもそもアニソンを歌うこと、アニメ作品の一部になることに最大の喜びを見出しているからかもしれないですね。小学校高学年の頃、精神的にアニメに助けられて、それからずっとアニメと一緒に育ってきているので、アニメの世界に恩返しがしたいし、アニメの中にきちんと生きていたんですよね。
ーーじゃあボーカリストTRUE、作詞家・唐沢美帆の最大の喜びって……。
TRUE:アニメ作品が成功することです!
ーーそう考えると恵まれていますね。TRUEさんが過去テーマソングを歌ってきたアニメ作品というと『響け!ユーフォニアム』に『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』と人気作が並んでいる。そして『転スラ』も今シーズン最注目作の一つですし。
TRUE:そうですね。それに『ユーフォニアム』って毎年コンサートをやっていて、今年で3回目になるんですけど、最初はリスナーの方も「『ユーフォ』のための『ユーフォ』の曲」を聴きに来ていたのが、今年になって「あっ、あの歌詞ってTRUEさん自信のことだったんだね」ってすごく深く理解してくださるようになって。そうやって聴く方の受け取り方が変わると、こちらの表現もどんどん変化していくし、進化していくし。そういう相乗効果で音楽の世界がより豊かになっているのをすごく感じていて。『転スラ』もそういう作品になればいいな、と思ってます。オンエアが終わったあとも、それこそリムルみたいに仲間を増やして、作品や曲がずっとずっと成長していくといいな、って。
ーーおーっ!
TRUE:……って、私、変ですか? そんなにビックリされると思わなかった(笑)。
ーー「シンガーソングライター」というと、自分の言葉を気持ちよく歌う人というイメージがあったから「あくまでアニメの中に生きたい」「アニメを通じて自身の表現を成長させたい」というモチベーションをお持ちなのにはちょっとビックリしました。
TRUE:なるほど。
ーーじゃあ意地の悪い質問なんですけど、まったく共感できなそうなキャラクターしか出てこないアニメのテーマソングを依頼されたら……。
TRUE:そういう作品ってないと思うんですよ。目を背けたくなるような側面を持ったアニメはあるけど、自分自身の中にもそういう目を背けたくなることをしかねないイヤな感情っていうものはあるじゃないですか。
ーー人間の悪側面もしっかり言葉にしたい?
TRUE:したいです! 小学校、中学校の頃、自分の感情を整理するためにアニメを観ていたことあって、アニメの中に自分の感情のカケラみたいなものがあるのは、当たり前のことだと思っていて。共感なり、反発なり、イヤだけど受け止めざるを得ないみたいな感情なり、物語の中にはそういうものが閉じ込められていると思うので、私に限らず、アニメファンの方は少なからず心を整理したり、寄り添ってもらったりするために観ているんじゃないかな、とは思ってます。