南條愛乃の“アパート”は幸せに満ち溢れた空間に 『東京 1/3650』を主軸にしたツアー千葉公演

南條愛乃の幸せに満ちた“アパート”

 ライブも折り返しに差し掛かり、セットリストに隠された驚くべきコンセプトがついに明かされた。今回のツアーでは各会場限定で、過去に開催したライブツアーの“再現コーナー”を披露するという。実際の参加者にはその追体験として、そして彼女の活動を最近追いはじめたファンには、当時の雰囲気を感じてもらおうという、このタイミングにふさわしい振り返り企画だろう。ここでは、各楽曲に込められた想いや当時の制作エピソードが、南條の言葉で改めて語られたことも非常に有意義だったと付け加えておきたい。

 そして、この日だけのコンセプトに選ばれたのは、『東京 1/3650』リリースツアー。『東京 1/3650』は、静岡出身の南條が過ごした上京後の10年間と、それまでの声優活動を振り返った初のフルアルバムだ。ほぼ全ての楽曲で、南條が作詞に臨んだためか、過去のアルバムのなかでも特にファンの日常と重なる描写が多く存在する。また、発表当時の2015年は、南條の音楽活動が本格化した時期だったほか、同作を携えたライブツアーは東京と大阪の2都市のみで開催。そのため、当時のライブに参加できなかったファンが、この日も客席の半分以上を占めており、今回の幸運な巡り合わせにさぞ喜びを噛み締めたことだろう。

 そんな『東京 1/3650』パートは、都会の静寂を思わせるピアノバラード「夜、静かな夢」にはじまった。当時は、南條のステージ登場時のSEとして演奏されたのみで、実際に歌唱されるのは今回が初めて。そんな数少ない未披露曲ゆえに生じた“高揚感”さえ、かつての初ツアーライブに感じた“期待感”にも似ていたような気がする。そこから、疾走感ある「believe in myself」を間髪入れずに演奏。当時のステージと同じ演出を辿ったことで、その雰囲気が鮮明に蘇ってくると同時に、彼女の音楽活動がここまで大きな実を結んだことを再認識する、とても貴重な時間を過ごすことができた。

 18曲目「だから、ありがとう」では、ストレートな言葉でファンへの感謝をとどける。同楽曲は、初日公演で歌われた「カタルモア」と同じく、ピアノ伴奏だけのシンプルな曲調だ。歌にごまかしの効かない分、ライブでは高い歌唱力が要求されるが、抜群の安定感と聴き心地を兼ね備えた南條の歌声は、むしろこのようなナンバーでこそ真価を発揮する。この日も彼女のハイトーンボイスが、楽曲の持ち味を存分に引き出すようだった。

 このパートの締めくくりに選ばれたのは、『東京 1/3650』のラストナンバー「+1day」。同楽曲は、多くの人々が行き交う都会のなか、ふとしたタイミングで互いにエールを送り合おうと歌っており、まさしく南條とファンの関係性を映しだすようだ。直前に披露された、友人との何気ないやり取りを描く「Dear × Dear」や、愛犬の天国への旅立ちを歌った「7月25日」なども踏まえ、南條の想いと歌声から明日への活力を受け取った気がした。

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