『イマジン:アルティメイト・コレクション』発売記念
ジョン・レノン『イマジン』が今なお絶大な影響力を持つ理由 青木優の10000字ロングレビュー
ヨーコ主導で行われた今回の『イマジン』再発
さて、ここでこの『イマジン』という作品の再リリースはヨーコの監修によってなされていることを付記しておこう。ここまでたびたび言及してきたヨーコだが、この時期のジョンには彼女の存在が絶大だった。今回の作品群も、現在のヨーコによって世に出されたものだと捉えるべきである。
とくにCDの音について書いておきたい。アルバム『イマジン』のサウンドは、雲が浮かぶ空にソフトフォーカスで映るジャケットのジョンのように、もともとファジーな印象があった。これまでのCDでもリミックスが何度かほどこされてきたが、今回の基本となるオリジナルのアルバムは新たなリミックスが「アルティメイト・ミックス」とされている。
今回のCDは、全体において音がさらにマイルドになり、ジョンのボーカルが強調され、バックのサウンドの比率がやや後退している。とくに制作後期にニューヨークでフィル・スペクターが重ねたストリングスの音色は存在感が低くなった。その結果、オリジナルの音よりも、ジョンの個人性が高まったように聴こえる。これをどう捉えるかは好みの問題になるだろう。僕としては「これもありかな」というところだ。
デラックス・エディションにはたくさんのテイクが収録されており、デモ・バージョンやボーカルだけのもの、楽曲のインスト部分のみのトラックもある。こうした膨大なアウトテイクには、制作過程の種明かしというか、舞台裏を見るような感覚がある。そしてこのような未発表の音源や、あるいはブックレットなども、すべてがヨーコの主導によってのリリースである。
では、このヨーコという存在について、あらためて。そもそも「イマジン」、そしてジョンのイメージが、愛と平和へのメッセージとともに世に広まっていったのは、ヨーコの尽力によるところが大きかった。2007年には彼女によってアイスランドにイマジン・ピース・タワーというモニュメントが建造されている。
ヨーコのこうした行動については、ジョンのファンの間でも意見が分かれるところがある。ただ、「イマジン」、およびこの時期のジョンの作品については、ヨーコ自身の思い入れがとくに大きいのは間違いない。
昨年、楽曲「イマジン」について、作詞作曲のクレジットがジョンとヨーコの共作に変更されることが発表された。実はジョンが「イマジン」を作った際に、前衛芸術家であるヨーコの著作『グレープフルーツ』(1966年刊)が源にあったというのは、よく知られた話である。今年9月30日付の日経新聞日曜版のNikkei Styleの紙上インタビューで、彼女はこう語っている。
「ちょうどビートルズが解散した時でね。ジョンは次に何を制作したら良いか悩んでいたの。私も解散を招く原因になったとファンから非難されていたので、もし『イマジン』を私との共作として発表したら、多くの人が聞こうとせず、せっかくの歌が死んでしまうのではないかと考えたの……」
ジョンも1980年、『プレイボーイ』誌上でこう語っていた。
「あれはLennon-Onoの曲としてクレジットされるべきだ。歌詞やコンセプトの多くはヨーコから来ているからね。でも、その時の僕はいつもよりちょっと自分本位で、いつもよりちょっと男権主義的だったから、彼女の貢献に言及するのを省いてしまったんだ」
ヨーコの思いは、ひとしおだろう。
そして10月9日はちょうどジョンの誕生日だったこともあり、『イマジン』関連のリリースやイベントが世界中で数多く開かれた。また、今月24日にはヨーコの新作『ウォーゾーン』も発売されることになっており、そこには彼女が唄う「イマジン」も収録されている。
ヨーコは一昨年、体調を大きく崩したことが報じられたが、去年はNHKの『ファミリーヒストリー』に息子のショーンとともに出演したり、今回もこうした動きがあるなど、安堵した人も多いはずである。
さて、こうして2018年版の『イマジン』は世界に放たれた。あとはアルバムを聴いていただくだけだ。とくに今の若い世代がジョンの歌をどんなふうに聴き、どう受け止めるのか。そこから新しい何かが生まれるのか。反応をぜひ聞いてみたい。
『イマジン』には、生身のジョンの歌が焼き付けられている。途中でも述べたが、その姿はカッコいいばかりではないし、決していい人だというわけでもない。
しかしそんなところまでも全部ひっくるめて音楽で……すさまじく美しいメロディも、アグレッシブなロックンロールも叫び、自分を表現してしまうのが、ジョン・レノンというアーティストなのである。
そうして、ありのままの自分自身を唄うことで、聴く者の心をここまで震わせられる才能は、いつの時代にだって、どこの国においても、そう多くはいない。
■青木優(あおきゆう)
1966年、島根県生まれ。1994年、持ち込みをきっかけに音楽ライター業を開始。現在「テレビブロス」「音楽と人」「WHAT's IN?」「MARQUEE」「オリジナル・コンフィデンス」「ナタリー」などで執筆。
■リリース情報
『イマジン:アルティメイト・コレクション』
スーパー・デラックス・エディション:12,000円+税
CD1 – アルバム – アルティメイト・ミックス ディスク1
CD2 – アルティメイト・ミックス ディスク2
CD3 – ロウ・スタジオ・ミックス
CD4 – エヴォリューション・ドキュメンタリー
ブルーレイ1 – イマジン: アルティメイト・ミックス
ブルーレイ2 – イン・ザ・スタジオ・アンド・ディーパー・リスニング
<日本盤のみ>
英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付
2CDデラックス・エディション:3,600円+税
CD1 – リミックス・アルバム+シングルズ&エクストラズ
CD2 – エレメンツ・ミックス+アウトテイク
<日本盤のみ>
英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付
1CD :2,500円+税
CD1 – リミックス・アルバム+シングルズ&エクストラズ
<日本盤のみ>
英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付
2LP<輸入国内盤仕様/完全生産盤>:5,500円+税
LP1 – リミックス・アルバム
LP2 – アウトテイク
<日本盤のみ>
英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付
2LPクリア・ヴィニール<UNIVERSAL MUSIC STORE限定/輸入国内盤仕様/完全生産盤>:6,000円+税
LP1 – リミックス・アルバム
LP2 – アウトテイク
<日本盤のみ>
英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付
【映像作品】
『イマジン/ギミ・サム・トゥルース』
DVD:3,700円+税
<日本盤のみ>
日本語字幕付/英文ライナー翻訳付
ブルーレイ:4,600円+税
<日本盤のみ>
日本語字幕付/英文ライナー翻訳付
(メイン写真=Iain Macmillan(C)Yoko Ono)