川谷絵音が語る、“新しい音楽”を求め続ける理由「いつの時代も作る人は絶対にいる」

 2018年1月にリリースされたゲスの極み乙女。の5thシングル『戦ってしまうよ』に関するインタビューで、「2017年は種を蒔く年で、それを花開かせるのが2018年」と語っていた川谷絵音。その言葉通り、川谷は6月に自身の主宰する新レーベル<TACO RECORDS>を発足。7月18日にはindigo la Endの4thアルバム『PULSATE』、8月29日にはゲスの極み乙女。の4thアルバム『好きなら問わない』と、充実したアルバムを立て続けに発表した。

 今回もリアルサウンドでは、川谷絵音に単独インタビューを行った。前述の<TACO RECORDS>発足の経緯から、最新2作における音楽的なアウトプットの方向性、そして並行して手がけるDADARAYやジェニーハイでの関わり方や新プロジェクトについてなど、今まさに黄金期を迎えつつある音楽家のビジョンをさらに掘り下げて聞いた。(編集部)

曲がきちんと届くだろうという自信

ーーまずは新レーベル<TACO RECORDS>について。今後、川谷さん主導で様々なことが進んでいくことへの期待感があるのですが、ご自身はレーベルを持つことについて、事前にどんなことをイメージしていましたか。

川谷絵音(以下、川谷):活動の幅が広がってきて、自分のものだけでも多くのプロジェクトがあったので、もはや普通に自主レーベルのような感じだったんです。もともと、一般的にはアーティストが行わない突っ込んだこと、トータルプロデュースのようなこともやってきたし、名前を冠しただけで特に変わるわけでもないんですけど、表現方法として自主レーベルを作りました、という。

ーー「突っ込んだこと」というのは、A&R的なことも含めてでしょうか。

川谷:そうですね。他のアーティストがどこまでやってるかはわからないですけど、リリース日もそうですし、プロモーションの方法やスケジュールの決定も含めて、わりとスタッフっぽいこともやってきました。自分でやらないと気が済まない部分も、けっこうあって。本当に僕が納得するようなことを言ってくれる人がいればやらないんですけど、なかなかそうもいかないじゃないですか。だから、「やりたい」というより、結果的にやってきたという感じです。

ーー第一弾として、ゲスの極み乙女。のアルバム『好きなら問わない』がリリースされ、indigo la Endの次作も含め、川谷さんのプロジェクトが続々、<TACO RECORDS>から送り出されると。そして今後、例えば川谷さんがフックアップしていく若手アーティストが出てくる、という可能性もありますか?

川谷:ありますね。もともとそういうことがやりたかったというか、僕、多分A&Rやったらすごい優秀だと思うんです(笑)。新人発掘もめちゃくちゃ得意だし、発掘してそのままプロデュースできる、という強みもあるので。最初にやりたかったことに戻った、という感じかもしれないですね。もともと自分でステージに立ちたいというより、曲を作りたいとか、こういうアーティストをこう見せたい、という方が強いし、そういうことも将来的にはできればいいなって。

ーー例えば、光るものがあるアーティストを見たとき、「自分だったらこういう風にプロデュースするんだけどな」と感じることも?

川谷:ありますね。ただ、「曲をこうすればいいのにな」だったら、もうそのアーティストじゃなくなってしまうこともあるし、結局、僕のプロジェクトになってしまうのはよくないとも思っていて。日の目を見させるために、ちょっとだけフックアップするような作業ができるアーティストに出会えればいいと思うんですけどね。日々わりとチェックはしているんですけど、やっぱりなかなかいないので。

ーーいずれにしても今後、この<TACO RECORDS>が川谷さんの活動の拠点になっていくことは間違いないということでしょうか。

川谷:そうですね。

ーーそのなかで、今回リリースされた2枚のアルバムについても伺います。もともと、ゲスの極み乙女。、indigo la Endとも、川谷さんがかなり意識的にユニットのあり方を考え、それぞれ追求されていたと思いますが、昨年リリースされた『達磨林檎』『Crying End Roll』の2枚は、いわば混沌とした状況の中で出てきた生々しい傑作でした。一方で今回の2枚は本来のペースというか、川谷さんの理知的でクールな部分が出ているように感じます。

川谷:『達磨林檎』や『Crying End Roll』は本当に混沌としていた時期で、あまり冷静には作っていなかったです。「なんか吐き出したい」みたいなーーよく言えば原始的な音楽欲求みたいな部分だったのかもしれないけれど、負の感情ばかりで曲を作っていたので、あまり周りが見えていなかったなと。それはそれでよかったんですけどね。

 その意味で、今回は音楽をちゃんと音楽としてというか、バンドの見せ方、バンドはこうあるべきだ、というものが、自分が考えている以上に、無意識的にも曲に入ってきていると思います。曲について「こんなに緻密にできていて」なんてよく言ってもらうんですけど、別に何も考えていないし、毎回奇跡的に、そういう曲ができている感じなんですよ。毎回起きていれば奇跡じゃないのかもしれないけど、計算ではなく感覚で作っているから、自分でも「おー!」と思うものができる。前の2作は「おー!」っていうものができても、必要以上に世の中に自分の曲を提示したいという感覚があったけれど、今回はもっと素直に、いい曲ができたし、多分きちんと届くだろうという自信に変わっていったというか。

ーーなるほど。前作の一回性のよさもありますが、今回はより密に、メンバーとやり取りをされたようですね。特にindigoの方は、佐藤栄太郎さんのドラムがあって、というところも大きいと思いますが、メンバーとの関係性は重要度を増しているのでしょうか?

川谷:そうですね。そのなかでも、ゲスはどちらかというと僕から生まれたものを全員で広げていく感じで、indigoは僕と栄太郎が密に生み出すのが最初なので。それは狙ってというより、自然と、僕と栄太郎の関係性でそうなっていったというか。作り方もメンバーによって分かれますね。

ーーゲスのなかでは、川谷さんから出てきたものがメンバーのなかで変化していくと。あて書きする、ということもありますか?

川谷:ピアノもベースも「こういう感じで」というのはだいたいありますし、ドラムもけっこうガチガチにリズムを作ったりしますね。indigoはわりと雰囲気でやっているので、そこはちょっと違うかなと。

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