U.D.O.、Mantar、Annisokay……ジャーマンメタル&ラウドシーンの過去と未来をつなぐ新作10枚

ドイツ出身バンドの新たな可能性

Obscura『Diluvium』

 ここまでは“Helloweeni以前”と“Helloween以降”のバンドを通じて、ジャーマンメタルの現在進行形を紹介しましたが、続いて従来のジャーマンメタルの枠にとらわれない新たなスタイルを持つバンドたちの新作をピックアップします。

 Obscuraは2002年にミュンヘンで結成されたテクニカルデスメタルバンド。デスメタルをベースに、プログレッシヴメタルやフュージョンなどの要素を取り入れた複雑怪奇なサウンドと、この手のバンドにしては珍しいフレットレスベースを取り入れている点などが特徴です。2年ぶり5作目のアルバムとなる『Diluvium』は次々に展開していく難易度の高いアレンジと、異常にテクニカルな各メンバーのプレイが合間って、コーラスパート以外メロディアスさが一切ないデス声ボーカルながらも不思議と引き込まれる、常習性の強い1枚。暴力的ながらも知的さも兼ね備えた、まったく飽きのこない力作です。

OBSCURA - Diluvium (Official Music Video)
Mantar『The Modern Art Of Setting Ablaze』

 ボーカル&ギター、ドラム&ボーカルという2人編成のMantarは、2012年結成とキャリア的にはまだ浅いながらも強烈な色を放つ異色の存在。メタル/ラウドロックでベースレス編成は致命的と思われがちですが、彼らが奏でるヘヴィなスラッジメタルサウンドはドイツだけでなく世界中を見渡しても類似するものが見つからない、個性的なバンドです。昨年の初来日公演を経て、今年8月末にリリースされた3rdアルバム『The Modern Art Of Setting Ablaze』は、とても2人だけで鳴らしているとは思えないほどに重厚かつ威圧感があり、爆音で聴いたらきっと脳天をハンマーで殴られたような感覚に陥ることうけあいです。

MANTAR - Seek + Forget (OFFICIAL VIDEO)
Venues『Aspire』

 男女ツインボーカルを含む6人編成のVenuesは、この夏にアルバム『Aspire』でデビューしたばかり。流麗な女性ボーカルと激しいスクリームやラップボーカル、モダンなバンドアンサンブルが織りなすサウンドは、日本のラウドロックバンドにも通ずるものがあり、coldrainあたりが好きなリスナーにもヒットするのではないでしょうか。また、女性ボーカルを擁したポストハードコアという点においては、初期のParamoreを好む人にもうってつけ。

VENUES - We Are One (OFFICIAL VIDEO)
Our Mirage『Lifeline』

 男性4人組ポストハードコア/メタルコアバンドのOur Mirageにとって、先日発売された『Lifeline』は初のフルアルバム。昨年3月に発表されたデビューシングル『Nightfall』のMVは、現在までYouTubeで244万再生を記録する人気ぶりで、翳りのある叙情的なメロディと端正に作り込まれたサウンドからはLinkin Parkあたりの香りが感じられます。日本盤もリリースされていない、まだまだこれからの存在ではあるものの、名前だけでも覚えておいて損はないバンドのひとつだと思います。

OUR MIRAGE - Lost (OFFICIAL VIDEO)
Annisokay『Arms』

 さらに、ドイツ国内でこの手のバンドとしては比較的キャリアの長いAnnisokayの新作『Arms』も、メタルコアやポストハードコアが好きなリスナーにはたまらない1枚ではないでしょうか。すでに結成から10年以上の彼らが放つ4thアルバムでは、クリーンとスクリームを巧みに使い分けたハイトーンボーカルと、昨今のBring Me The Horizonあたりに通ずる浮遊感の強いエレクトロニコア寄りサウンドが独特のゴシック感を作り上げています。また、Attilaのクリス・フロンザックがゲスト参加した楽曲も含まれているので、この手のバンドが好きでたまらないリスナー必聴の1枚と言えるでしょう。

ANNISOKAY - Unaware (OFFICIAL VIDEO)

 VenuesやOur Mirageしかり、こういったスタイルのバンドがこれから続々と、ドイツから世界に向けて羽ばたいていくことになるでしょうし、そういったバンド群が新たなシーンを築く可能性もゼロではありません。古き良きジャーマンメタルサウンドを守り続けるバンドもいれば、Annisokayたちのように時代に敏感な若手もいる。さらにその中には、ObscuraやManterみたいに新しいヘヴィ/ラウドサウンドを追求する者たちもいるわけで、視界を広げることでドイツのヘヴィメタル/ラウドロックシーンは思っていた以上に多彩であることがわかるはずです。これを機に従来の偏見を捨て去って、さまざまなドイツのヘヴィメタル/ラウドロックバンドに触れてみることをオススメします。

■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

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