JUJU、さまざまな“アイ”の歌で最新作『I』の世界を再現 ドラマチックなホールツアーをレポート
自ら「私史上、一番大好きなアルバム」と公言する最新作『I』の世界を再現する、『JUJU HALL TOUR「I」』の東京公演2日目。7月31日、東京国際フォーラム ホールAは、全44公演の40本目にあたり、歌、演奏、演出ともに完成度はマックス状態。満員の観客を踊らせ、泣かせ、歌わせ、勇気づける、愛に溢れた素晴らしい時間がそこにあった。
逢、藍、哀、そして愛。アルバムに込めたメッセージをスクリーンに映し出す、厳かなイントロに続き、暗闇のステージに光が弾けた。1曲目は『I』の中でもとびきりアッパーでダンサブルな「believe believe」だ。コーラス隊、ストリングスカルテットを加えた11名のバンドに、ダンサーを従えて歌い踊るJUJUの、ピンクのヒールとスレンダーな脚線美が目にまぶしい。もちろん歌は完璧だ。オールディーズ/ロックンロール調の「Roll the Dice」では、キーボーディストがサックスに持ち替え、ご機嫌なブロウを聴かせる。観客は総立ち、広いホールが華やかなパーティー会場に変わる。
「Good Evening,Ladies&Gentlemen! 東京、最後です。楽しむ準備はできてますか? Are You Ready?」
挨拶もそこそこに、グルーヴを途切れさせずに演奏は続く。「ウラハラ」から「RISKY」へ、回るミラーボールと80年代テイストのシンセサイザーの音色が良く似合う。歌謡曲、ディスコ、ソウルなどが混然となった大人のポップスを歌わせたら、JUJUは本当にうまい。色気があり挑発的、そこにノスタルジーと哀愁を加えた見事なボイスパフォーマンス。
ここでたっぷり時間をとって、アルバム『I』のコンセプトについて語るJUJU。自分はなぜ歌っているのか、自分は何者か。生まれてから今までに、消してしまいたい過去もあった。そのひとつでも欠けていたら、今の自分にはなりえていない。これからの人生にも、いろんな自分が出てくる。それも用意されたものと思えれば、きっとうまく対峙できる。今の自分にできること。それはいろんな“アイ”の歌を歌うことーー。
「いろんなアイの歌を、自分の中のアイと重ね合わせて。東京最後の夜を、忘れられない夜にしようと思います」
「あの夜のふたり」は、リスナーからよせられた実話に基づく大人の愛のストーリー。深いブルーのライトの下で、しっとりとした旋律が静かに揺らめく。流麗なバラード「Because of You」から、明るくテンポアップしてポップなR&Bチューン「Let It Flow」へ。観客全員にコーラスを促し、「JUJU・フィーチャリング・東京オールスターズです!」と紹介する、笑顔のJUJU。長いアウトロを、バンドがこれでもかと盛り上げる。素晴らしいグルーヴに乗って、場内は幸せな一体感に包まれる。
ここまではすべて『I』からの曲だったが、ここからはガラリと趣を変えて。粋なハットとパンツルックに着替えたJUJUの背後に輝く、〈DELICIOUS JUJU〉のきらびやかな電飾。そう、JUJUのもう一つの顔であるジャズシンガーの側面にスポットを当てるこのコーナー、過去2枚のジャズアルバムシリーズ『DELOCIOUS』から、「Lullaby Of Birdland」「Take Five」「It Don’t Mean A Thing」の3曲を歌うJUJUは、本当に自然体で楽しそうだ。バンドはご機嫌にスウィングし、観客は思い思いに体を揺らす。「ジャズは、音楽の解釈が自由なんです」。そう話すJUJUの思いは、たとえジャズに詳しくないリスナーにも、しっかりと伝わっていたはずだ。
スクリーンを使ったお洒落なメンバー紹介を経て、白い衣装に着替えたJUJUが「Love Is Like」を歌い始める。アルバム『I』のオープニングを飾るこの曲は、洗練されたシティポップ、ソウル、歌謡曲が一体となった心地よいクルージング感と、大人の女性の愛と孤独を描く歌詞がじんわりと胸に沁みる。細かく弾むファンキーなフィーリングが特徴の「いいわけ」では、情念をこめたハイトーンが聴けた。お馴染みのままならない恋心を歌うバラード「Distance」で切なさの頂点を極めたあと、同じ切なさでも、平井堅の作詞作曲による、大人の女性にとってよりリアルに身につまされるストーリーの、「かわいそうだよね」を続ける曲順がうまい。じわじわと高まるエモーション。いよいよ、ライブはクライマックスに近づいてきた。
とにかく泣けると大絶賛された、あのミュージックビデオをスクリーンに映しながら歌いあげた「東京」。その続編のように、美しい青空を映した映像をバックに、心を込めて歌った「空」。JUJUとコーラスの二人が、泣きたくなるほど美しく壮大な三声コーラスを、空高く響かせる。まるで組曲のようにつながった2曲の大作バラードが、互いに高め合って感動を増幅してゆく。