BUMP OF CHICKENの楽曲に感じる“バンプらしさ”の源泉とは? 「望遠のマーチ」などから分析

BUMP OF CHICKEN『望遠のマーチ』

 そして、最後に新曲「望遠のマーチ」を改めて聴いてみよう。キーはBで、AメロはB - B - A♭m - E♭m - E - A - B - B。ダイアトニックの循環コードにトニックコードの全音下、VII♭(つまりここではA)を当てるのは、「メーデー」のサビの終わりにもあったが、このコード一発で雰囲気がぐっとブルージーになる。BメロはG♭ - A♭m - G♭onB♭ - B - A - A♭m - G/A。ここでも前半のベースはクリシェ進行になっていて、G♭onB♭という分数コードを経てBへと半音~全音進行でスムーズに到達する。サビ直前のG/Aも調整から外れるが、全音進行でトニックコードへ到達する。これもまた、ブルージーな響き。

 サビはB - B - B - B - A♭m - A♭m - E♭m - D - F# - F# - F# - F#。とてもシンプルな循環コードで、メロディは前半が2音のシンコペーションが強烈なインパクトを生み、後半は〈その羽根で飛んできたんだ〉の〈きたんだ〉の部分で、ブルーノート・スケールで用いられる「微分音」、つまり短3度と長3度の中間の音を用いていて、ここでもいなたくブルージーな響きを作り出している。分数コードやクリシェを用いたクラシカルで浮遊感あふれる響きに、ブルージーな響きを絶妙なバランスで加えることにより、楽曲にコントラストを生み出しているのだ。

 「記念撮影」「望遠のマーチ」と、ここ最近は初期のBUMP OF CHICKENに立ち返ったようなシンプルなコード進行を用いているが、随所に散りばめた仕掛けや、アレンジの工夫により広がりと深みが増したBUMP OF CHICKEN。2016年の『Butterflies』以来となる、来るべき新作アルバムがどのようなものになるのか今から楽しみだ。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

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